集合論問題集

5 難しいこと

5.1 濃度

  1. 集合 A , B について以下の問に答えよ。
    1. (1) |A| ≤ |B| であることの定義を述べよ。
    2. (2) |A| < |B| であることの定義を述べよ。
    3. (3) |A| = |B| であることの定義を述べよ。
    -
    1. (1) A から B への単射が存在する。
    2. (2) |A| ≤ |B| であって |B| ≤ |A| ではない。
    3. (3) A から B への全単射が存在する。
  2. |A| ≤ |B| , |C| ≤ |D | であるとき |A ×C | ≤ |B ×D | であることを示せ。
    -
    |A | ≤ |B | の定義が「 A から B への単射が存在する」ということなので、これは第 3 章問 35 (1) によって示される。
  3. ベルンシュタイン (Bernstein) の定理を述べよ。
    -
    |A | ≤ |B | かつ |B | ≤ |A | ならば、 |A | = |B | である。」言い換えると「単射 A → B と単射 B → A が存在 するならば、全単射 A → B が存在する。」
  4. 次のような全単射を具体的に構成せよ。ただし (a,b) などは区間を表わすものとする。
    1. (1) a &'x003C; b に対して f : (0,1) → (a,b)
    2. (2) a ∈ ℝ に対して f : [0,1) → [a,∞)
    3. (3) a ∈ ℝ に対して f : (0,1) → (a,∞ )
    4. (4) a ∈ ℝ に対して f : (0,1] → (- ∞, a]
    5. (5) a &'x2208; ℝ に対して f : (0,1) → (- ∞,a)
    6. (6) f : [0,1] → [0,1)
    7. (7) f : (0,1] → (0,1)
    8. (8) f : [0,1) → (0,1]
    9. (9) f : (- 1,1) → (- ∞, ∞)
    -
    1. (1) f(x) = (b- a)x + a
    2. (2) f(x) = a - 1+ 1∕(1- x)
    3. (3) f(x) = a - 1+ 1∕(1- x)
    4. (4) f(x) = a + 1- 1∕x
    5. (5) f(x) = a + 1- 1∕x
    6. (6) S = {1∕2m | m ∈ ℕ ∪{0}} とする。 x ⁄∈ S のとき f(x) = x x ∈ S のとき f(x) = x∕2 f を定めれば、これが全単射になる。
    7. (7) (6) の f (0,1] に制限したもの。
    8. (8) f(x) = 1 - x
    9. (9) f(x) = x ∕(1 - x2)

    これによって実数の区間はすべて等しい濃度をもつことが分かる。

  5. ℕ から ℤ への全単射を具体的に構成せよ。
    -
    a が偶数のとき f(a) = a∕2 a が奇数のとき f(a) = (1- a)∕2 とすれば、この f は全単射である。
  6. ℕ × ℕ から ℕ への全単射を具体的に構成せよ。
    -
     a-1f(a,b) = 2 (2b- 1)
  7. |ℚ| = |ℕ| を示せ。
    -
    r ∈ ℚ を既約分数の形に書き、その分母を r1 , 分子を r2 とする。分母は正であるとし、整数については、その分母を 1 とする。これによって写像 ℚ → ℤ × ℤ , r ↦→ (r1,r2) が定義でき、作り方から単射である。したがって |ℚ| ≤ |ℤ× ℤ| である。問 2, 5, 6 より |ℤ× ℤ| = |ℕ × ℕ| = |ℕ| となるので |ℚ | ≤ |ℕ | である。
    一方、自然な埋め込み ℕ → ℚ があるので |ℕ| ≤ |ℚ | である。よってベルンシュタインの定理により |ℚ | = |ℕ | である。
  8. |ℕ| < |ℝ| を示せ。
    -
    ℕ ⊂ ℝ なので |ℕ | ≤ |ℝ| である。よって |ℕ | ⁄= |ℝ | であること、すなわち ℕ から ℝ への全単射が存在しないことをいえばよい。 I = (0,1) を開区間とする。 |I| = |ℝ| なので ℕ から I への全単射が存在しないことをいえば十分である。 f : ℕ → I を全単射とする。 (0,1) の元を無限小数として表し
    f(1) = 0.a(1)a(1)a(1)⋅⋅⋅ 1(2)2(2)3(2)f(2) = 0.a1 a2 a3 ⋅⋅⋅f(3) = 0.a(13)a(23)a(33)⋅⋅⋅ ⋅⋅⋅
    と表すことにする。このとき、 b ∈ I を少数第 i 位が f(i) と異なるように作る。そうすれば b は、どの f (i) とも異なるので f が全単射であることに矛盾する。したがって ℕ から I への全単射は存在しない。
  9. ℝ から ℝ\ {0} への全単射を具体的に構成せよ。
    -
    f : ℝ → ℝ \{0} を、
     { x+ 1 if x ∈ {0} ∪ℕf(x) = x if x ⁄∈ {0} ∪ℕ
    で定めるとこれは全単射である。
  10. |X | < |2X | を証明せよ。
    -
    f : X → 2X ( f(x) = {x} ) は単射なので |X| ≤ |2X| である。 |2X| ≤ |X| と仮定する。ベルンシュタインの定理 より、全単射 g : X → 2X が存在する。
    R = {x ∈ X | x ⁄∈ g(x)}
    とおく。 R ∈ 2X であり、 g は全単射なので R = g(y) となる y ∈ X が存在する。 y ∈ R とすると y ⁄∈ g(y) = R で矛盾、 y ⁄∈ R とすると y ∈ g(y) = R でやはり矛盾である。したがって、このような全単射は存在せず |X| < |2X| である。
    すべてのものを含む集合が存在するとすれば、それは最大の濃度をもつはずであるが、この関係式によって、最大の濃度をもつ集合は存在しない。 したがって、すべてのものを含むものは集合ではない。
  11. |ℝ × ℝ| = |ℝ | であることを示せ。
    -
    I = (0,1) (開区間) とする。 |ℝ| = |I| であるから |I × I| = |I| を示せばよい。また f : I → I × I ( f(a) = (a,0.5) ) は単射なので |I| ≤ |I × I| である。 I × I から I への単射を構成すればベルンシュタインの定理によって |I × I| = |I| である。
    任意の a ∈ I 0.a1a2a3⋅⋅⋅ と無限 10 進小数で表すことができる。ここで 0.1 = 0.999⋅⋅⋅ などと表し、有限少 数は許さないこととする。 g : I × I → I
    g(0.a1a2⋅⋅⋅ , 0.b1b2⋅⋅⋅) = 0.a1b1a2b2 ⋅⋅⋅
    で定義すると、これは単射である。
    したがって |ℝ × ℝ| = |I × I| = |I| = |ℝ| となる。
  12. 集合 X とその真の部分集合 Y に対して、 |X | = |Y| である、すなわち全単射 f : X → Y が存在する、とする。 このとき |ℕ | ≤ |X | であることを示せ。
    -
    x ∈ X - Y とする。 x = x 1 として、帰納的に x = f (x ) i+1 i ( i ∈ ℕ ) とする。ただし x = f(x) ∈ Y ⊂ X i+1 i と見る。これによって X の部分集合 {x } i i∈ℕ が得られる。これがすべて異なることをいえば、 ℕ → X ( i ↦→ x i ) は単射となり |ℕ | ≤ |X | である。
    S = {(i,j) ∈ ℕ × ℕ | i < j} とおき、これを辞書式順序による整列集合 ℕ × ℕ の順序部分集合と見れば、これも整列集合である。 T = {(i,j) ∈ S | xi = xj} とおく。 T = ϕ を示せばよいので、 T ⁄= ϕ として矛盾を導く。
    T ⁄= ϕ とすると、 S が整列集合であることから T は最小元 (i0,j0) をもつ。 x1 ⁄∈ Y であり j > 1 に対しては xj ∈ Y であるから、 x1 ⁄= xj である。よって i0 > 1 である。また i0 < j0 であるから j0 > 1 も成り立つ。このとき xi0 = xj0 より f(xi0-1) = f(xj0-1) である。 f は単射なので xi0- 1 = xj0- 1 である。よって (i0 - 1,j0 - 1) ∈ T である。しかし、これは (i0,j0) の最小性に反する。したがって T = ϕ である。
    集合 X について、ある真の部分集合 Y との間に全単射が存在するとき、 X を無限集合と定義すること もある。したがって、この問は自然数の濃度 |ℕ| (これを  aleph 0 とかきアレフゼロとよむ) が無限集合の濃度 のうち最小であることを示している。
  13. |X | ≤ |ℕ | となる集合 X は整列順序をもつことを示せ。 ( |X | ≤ |ℕ | となる集合 X を可算集合という。)
    -
    単射 f : X → ℕ が存在する。このとき ℕ の順序によって X の順序を定めれば、それは整列順序である。すなわ ち、 x,y ∈ X に対して f (x) ≤ f(y) のとき x ≤ y と定めるのである。 (第 4 章問 24 参照)

5.2 選択公理

  1. 選択公理 (選出公理) を書け。
    -
    集合の族 {Aλ}λ∈Λ を考える。任意の λ ∈ Λ に対して A λ は空でないとする。このとき、「各 A λ からいっせい に一つずつ元を取り出すことができる。」
    これは次のように言い換えることもできる。「直積集合 ∏ λ∈Λ Aλ は空でない。」
    選択公理を他の標準的な公理から導くことはできない。したがって、しれを使うにはこれを公理として仮定しなくてはならない。しかし Λ が有限集合であれば、他の標準的な公理から導くことができる。したがって、 有限個の集合族に対して用いる場合には注意する必要はない。また、各 Aλ が可算集合 (あるいは整列集合) であれば、やはり他の標準的な公理から導くことができる。
  2. 整列可能定理を書け。
    -
    任意の集合は整列順序をもつ。
  3. ツォルン (Zorn) の補題を書け。
    -
    帰納的順序集合は極大元をもつ。
    「選択公理」、「整列可能定理」、「Zorn の補題」の三つは互いに同値であることが分かっている。 すなわ ちこのうちのどれか一つを仮定すれば、残りの二つが証明できるのである。
  4. X , Y を空でない集合とする。選択公理を仮定する。 X から Y への全射が存在するとき、 Y から X への単射が存在することを示せ。
    -
    任意の b ∈ B に対して f-1(b) ⁄= ϕ である。各 b ∈ B に対して f -1(b) から一つ元を取り、それを g(b) とする (ここで選択公理を使っている)。このとき g : B → A は単射である。
    3 章問36 とこの問により、選択公理を仮定すれば、 X から Y への全射が存在することと、 Y から X への単射が存在することは同値となる。
  5. 整列可能定理から選択公理を示せ。
    -
    集合の族 {A } λ λ∈Λ を考え、任意の λ ∈ Λ に対して A λ は空でないとする。 A = ⋃ A λ∈Λ λ とおく。整列可能定理より A に整列順序が存在する。この順序によって、各 A λ も整列集合となる。このとき A λ は (唯一つの) 最小元をもつので、それを選ぶことによって A λ からいっせいに一つずつ元を選ぶことが出来る。
  6. 集合の族 {A λ}λ∈ Λ を考える。 A = ⋃λ∈Λ Aλ とおく。 {A λ}λ∈Λ の disjoint union とは
    ⋃ {(x,λ) ∈ A × Λ | x ∈ Aλ}λ∈Λ
    のこととし、これを ∐ λ∈ΛA λ と書く。このとき  ∐|A| ≤ | λ∈ΛA λ| を示せ。 ただし、選択公理を仮定するものとする。
    -
    (証明 1)
    単射  ∐f : A → λ∈ΛA λ を構成する。 x ∈ A に対して、ある λ ∈ Λ があって x ∈ A λ である。したがって Λ(x) = {λ ∈ Λ | x ∈ A λ} とおけば、これは空ではない。 {Λ(x)}x∈A に選択公理を用いて、写像 g : A → Λ が得られ、 x ∈ Ag(x) である。このとき  ∐f : A → λ∈ΛA λ f(x) = (x,g(x)) で定めれば、これは単射となる。
    (証明 2)
     ∐f : λ∈Λ Aλ → A f(x,λ) = x で定める。これが全射であることを示せば、選択公理と問 17 より単射  ∐g : A → λ∈ΛA λ が存在する。
    x ∈ A とする。ある λ ∈ Λ が存在し x ∈ A λ である。このとき (x,λ) ∈ ∐ λ∈ΛA λ であり f(x,λ) = x である。よって f は全射である。
    |∐ A | λ∈Λ λ ∑ |A | λ∈Λ λ とも書く。特に |Λ| < ∞ である場合には |A |+ ⋅⋅⋅+ |A | 1 n などの記号も用いる。
  7. (代数学の知識を仮定する。) R を単位元 1 をもつ環、 I をその真のイデアルとする。このとき I を含む極大イデアルが存在することを示せ。ただしツォルンの補題を利用してよい。
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    S I を含む真のイデアル全体の集合とする。 I ∈ S なので S ⁄= ϕ である。 S を集合としての包含関係によって順序集合と考える。 {Jλ}λ∈Λ S の全順序部分集合とする。  ⋃J = λ∈ ΛJλ とおく。このとき J R のイデアルで I を含む。また、各 λ ∈ Λ について、 Aλ R の真のイデアルなので 1 ⁄∈ Jλ である。よって 1 ⁄∈ J となり J ∈ S である。したがって {Jλ}λ∈Λ は上界 J をもち、上に有界である。よって S は帰納的順序集合となり、ツォルンの補題によって極大元 M をもつ。このとき M R の極大イデアルであり I を含む。