代数入門問題集

二項演算、半群、モノイド

  1. 集合 A の二項演算の定義を答えよ。
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    A の二項演算とは、写像 A × A → A のことである。
  2. 集合 A がちょうど二つの要素をもつとする。 A の二項演算はいくつあるか。
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    一般に、有限集合 X , Y について |X | = m |Y| = n とすると、 X から Y への写像は nm 個ある。 |A× A | = 4 , |A| = 2 であるから、二項演算は 24 = 16 個ある。
  3. A = {a,b} a ⁄= b なる集合とする。 A の二項演算で、結合法則をみたすものを具体的に一つ構成せよ。
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    例えば以下のようなものがある。
    1. (1) 任意の x,y ∈ A に対して f(x,y) = a であるもの。
    2. (2) f(a,a) = f(a,b) = a , f (b,a) = f(b,b) = b で定まるもの。
    3. (3) f(a,a) = f(a,b) = f(b,a) = a , f(b,b) = b で定まるもの。
    4. (4) f(a,a) = f(b,b) = a , f(a,b) = f(b,a) = b で定まるもの。
  4. 以下のものは、半群、モノイド、群、そのいずれでもないか、最も適当なものをそれぞれ答えよ。
    1. (1) 集合 {0,1} で通常の加法を演算とするもの。
    2. (2) 集合 {0,1} で通常の乗法を演算とするもの。
    3. (3) 集合 {-1,1} で通常の乗法を演算とするもの。
    4. (4) 集合 {-1,0,1} で通常の乗法を演算とするもの。
    5. (5) 実数を成分とする n 次正方行列の全体で通常の加法を演算とするもの。
    6. (6) 実数を成分とする n 次正方行列の全体で通常の乗法を演算とするもの。
    7. (7) 実数を成分とする n 次正則行列の全体で通常の乗法を演算とするもの。
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    (1) いずれでもない (2) モノイド (3) 群 (4) モノイド (5) 群 (6) モノイド (7) 群
  5. 実数を成分とする n 次正方行列 A = (aij) B = (bij) C = (cij) について (AB )C = A (BC ) が成り立つことを示せ。
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    AB (i,j) - 成分は ∑n k=1aikbkj である。 (AB )C A(BC ) (i,j) - 成分はそれぞれ
     ∑n ∑n ∑n((AB )C)ij = (AB )ikckj = (aiℓbℓk)ckj k=1 k=1 ℓ=1 ∑n ∑n ∑n(A (BC ))ij = aip(BC )pj = aip(bpqcqj) p=1 p=1q=1
    であるから、これらは等しい。

    (二つの行列が等しいことの定義は、すべての対応する成分が等しいことである。)

  6. 複素数 α1 = a1 + b1i α2 = a2 +b2i α3 = a3 + b3i について (α1α2)α3 = α1(α2α3) が成り立つことを示せ。 ただし a1,a2,a3,b1,b2,b3 ∈ ℝ i は虚数単位とする。
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    (α1α2)α3 = ((a1 + b1i)(a2 + b2i))(a3 + b3i) = ((a1a2 - b1b2)+ (a1b2 + b1a2)i)(a3 + b3i) = ((a1a2 - b1b2)a3 - (a1b2 + b1a2)b3)+ ((a1a2 - b1b2)b3 +(a1b2 + b1a2)a3)i = (a1a2a3 - b1b2a3 - a1b2b3 - b1a2b3) +(a1a2b3 - b1b2b3 + a1b2a3 + b1a2a3)iα1 (α2α3) = (a1 + b1i)((a2 + b2i)(a3 + b3i)) = (a1 + b1i)((a2a3 - b2b3)+ (a2b3 + b2a3)i) = (a1(a2a3 - b2b3)- b1(a2b3 + b2a3))+ (a1(a2b3 + b2a3)+ b1(a2a3 - b2b3))i = (a1a2a3 - a1b2b3 - b1a2b3 - b1b2a3) +(a1a2b3 + a1b2a3 + b1a2a3 - b1b2b3)i
    となるから、この二つの値は等しい。
  7. 直積集合 ℝ × ℝ
    (a,b)(c,d) = (ac,ad+ bc)
    で 二項演算を定める。
    1. (1) これが結合法則を満たすことを示せ。 (よってこれは半群である。)
    2. (2) 単位元を求めよ。 (よってこれはモノイドである。)
    3. (3) 正則元を決定し、その逆元も求めよ。
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    1. (1) ((a,b)(c,d))(e,f ) = (ac,ad + bc)(e,f ) = (ace,acf +(ad + bc)e) = (ace,acf + ade+ bce) である。また (a,b)((c,d)(e,f)) = (a,b)(ce,cf + de) = (ace,a(cf + de)+ bce) = (ace,acf + ade+ bce) であ る。よって ((a,b)(c,d))(e,f) = (a,b)((c,d)(e,f)) であり、結合法則が成り立つ。
    2. (2) (1,0)(a,b) = (a,b)(1,0) = (a,b) となるので (1,0) が単位元である。
    3. (3) (a,b) について、 a = 0 ならば (0,b)(c,d) = (0,bc) ⁄= (1,0) であるから (a,b) は正則元ではない。 a ⁄= 0 とする。このとき  -1 2 -1 2(a,b)(a ,- b∕a ) = (a ,- b∕a )(a,b) = (1,0) が成り立つ。よって (a,b) が正則元となる ための必要十分条件は a ⁄= 0 で、そのときの逆元は  -1 2(a ,- b∕a ) である。
  8. 直積集合 ℝ × ℝ
    (a,b)(c,d) = (ac- bd,ad+ bc)
    で 二項演算を定める。
    1. (1) これが結合法則を満たすことを示せ。
    2. (2) 単位元を求めよ。
    3. (3) 正則元を決定し、その逆元も求めよ。
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    1. (1) 省略。

      ( ((a,b)(c,d))(e,f) = (a,b)((c,d)(e,f)) を計算によって確かめればよい。実は問 6 と本質的に同じであ る。)

    2. (2) (1,0)(a,b) = (a,b)(1,0) = (a,b) となるので (1,0) が単位元である。
    3. (3) (a,b) = (0,0) は零元なので正則元ではない。 (a,b) ⁄= (0,0) と仮定する。  2 2 2 2 2 2 2 2(a,b)(a∕(a + b ),- b∕(a +b )) = (a∕(a + b),- b∕(a + b ))(a,b) = (1,0) が成り立つ。よって (a,b) が正則元 となるための必要十分条件は (a,b) ⁄= (0,0) で、そのときの逆元は  2 2 2 2(a∕(a + b ),- b∕(a + b)) であ る。
  9. 直積集合 ℝ × ℝ × ℝ
    (a,b,c)+ (d,e,f) = (a +d, b+ e, c + f) (a,b,c)(d,e,f) = (ad, ae+ bf, cf)
    で和と積を定める。
    1. (1) 積が結合法則を満たすことを示せ。
    2. (2) 積に関する単位元を求めよ。
    3. (3) 積に関する正則元を決定し、その逆元も求めよ。
    4. (4) 和と積が分配法則 (α+ β)γ = αγ + βγ ,   α(β +γ ) = αβ + αγ を満たすことを示せ。
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    1. (1) 省略。
    2. (2) (1,0,1) が単位元である。
    3. (3) (a,b,c) が正則元になるための必要条件として a ⁄= 0 c ⁄= 0 がすぐに分かる。 a ⁄= 0 c ⁄= 0 と仮定する。 このとき (a,b,c)(1∕a, - b∕ac, 1∕c) = (1∕a, - b∕ac, 1∕c)(a,b,c) = (1,0,1) が確認できる。よって (a,b,c) が 正則となるための必要十分条件は a ⁄= 0 かつ c ⁄= 0 であることで、このとき逆元は (1∕a, - b∕ac, 1∕c) である。
    4. (4) 計算によって確かめるだけなので省略する。
  10. M2(ℝ) を実数を成分とする 2 次正方行列全体の集合とする。 P,Q ∈ M2 (ℝ ) に対して [P,Q] = P Q - QP によって二項演算を定める。これが結合法則を満たさないことを示せ。
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    Eij (i,j) - 成分が 1 で、他の成分がすべて 0 である 2 次正方行列を表すことにする。このとき
    [[E11,E11],E12] = 0, [E11,[E11,E12]] = E12
    となり、結合法則は成り立たない。
    (結合法則が成り立たないことを示すには、成り立たないような例を一つ挙げればよい。)
  11. |A| = 2 なる可換半群を一つ具体的に構成せよ。また |A | = 2 なる非可換な半群を一つ具体的に構成せよ。
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    A = {a,b} とする。任意の x,y ∈ A に対して xy = a で定まるものは可換半群である。 aa = ab = a , ba = bb = b で定まるものは非可換半群である。
  12. 半群であるがモノイドではないものの例を一つ挙げよ。
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    例えば、 2ℤ = {2a | a ∈ ℤ} で演算として乗法を考えたもの。
  13. モノイドであるが群ではないものの例を一つ挙げよ。
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    例えば、 ℤ で演算として乗法を考えたもの。
  14. モノイドの単位元はただ一つ存在することを示せ。
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    e,e′ を共に単位元とする。このとき e = ee′ = e′ であるから e = e′ である。よって単位元はただ一つである。
  15. モノイドの正則元に対して、その逆元はただ一つ存在することを示せ。
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    e を単位元とする。 a をモノイドの正則元とし b,b′ を共に a の逆元とする。このとき b = b1 = b(ab′) = (ba)b′ = 1b′ = b′ であるから b = b′ である。よって a の逆元はただ一つである。
  16. M をモノイドとし、 a M の正則元とする。写像 f : M → M f(m ) = am によって定めれば f は全 単射であることを示せ。
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    (単射であること) f(m) = f(m′) とする。 am = am ′ である。 a は正則元なので、逆元 a-1 が存在する。 a-1 am = am′ に左からかければ m = m′ となる。よって f は単射である。

    (全射であること) m ∈ M とする。このとき f(a-1m) = a(a-1m) = m となるので f は全射である。

    [別解] g : M → M  -1g(m ) = a m で定める。このとき fg = gf = idM となるので f は全単射である。

  17. A = {0,1} は通常の乗法によって半群になっている。このとき演算表 (乗法表) を
     |0 1-0-|0-0-- 1 |0 1
    のように書く。 A = {0,1,- 1} も通常の乗法によって半群になっている。この半群の乗法表を書け。
  18. -
     |----|0---1----1- 0 |0 0 0 1 |0 1 - 1 - 1 0 - 1 1