距離空間論 演習問題 第12回

  1. 問題 1.

    ℝ ℝ2 を通常の距離で距離空間とみなす。このとき f(x,y) = |x|+ |y|- 1 で定義される写像
     2f : ℝ -→ ℝ
    が連続であることを示すことにより
     2{(x,y) ∈ ℝ | |x|+ |y| = 1}
    ℝ2 の閉集合であることを示せ。

    解答:

    関数 f(x,y) = |x|+ |y|- 1 が連続であることを示せば
    {(x,y) ∈ ℝ2 | |x|+ |y|- 1} = f-1({0})
    であり、 {0} ℝ の閉集合であることから、考えている集合が閉集合であることが分かる。 連続性を示すためには、連続写像の和や合成が連続であることを使えばよい。 例えば、 写像
     2p1 : ℝ -→ ℝp2 : ℝ2 -→ ℝ g : ℝ - → ℝ c : ℝ2 -→ ℝ
    p1(x,y) = xp2(x,y) = y g(x) = |x| c(x,y) = - 1
    で定義すると、これらは全て連続であり
    f(x,y) = (g∘p1)(x,y)+ (g ∘p2)(x,y) +c(x,y)
    となる。よって f は連続である。
  2. 問題 2.

    (X,dδ) を離散距離空間とする。このとき任意の距離空間 (Y,dY) と任意の 写像
    f : X -→ Y
    に対し f は連続であることを示せ。

    解説:

    写像が連続であることを示すためには次の三つの方法がある:
    1. (a) 既知の連続写像の四則演算や合成による組み合わせで表わす
    2. (b) ε - δ を用いる
    3. (c) 任意の開集合の逆像が開集合であることを示す
    前問では最初の方法で連続であることを示した。この問題では三番目の方法を用いる。

    解答:

    f が連続であることを示すためには、任意の開集合 U ⊂ Y に対し f-1(U) X の開集合であることを示せばよい。
    ところが 6/21 の演習問題 5 より、離散距離空間では全ての部分集合は開集合である。 よって f-1(U) X の開集合であり題意が示された。
  3. 問題 3.

    ℝ を通常の距離 d で距離空間とみなす。このとき (ℝ,d) から離散距離空間 (ℝ,dδ) への恒等写像は連続ではないことを示せ。

    解答:

    恒等写像を
    1ℝ : ℝ -→ ℝ
    とおく。これが連続でないことを示すためには、 (ℝ,dδ) の開集合 U (1ℝ)-1(U ) (ℝ,d) で開集合でないものを一つ見付ければよい。
    例えば U = {0} とすると、 U は離散距離では開集合であるが通常の Euclid 距離 (ℝ,d) では開集合ではない。これで恒等写像が連続ではないことが示された。
  4. 問題 4.

    距離空間の間の写像
    f : X -→ Yg : Y - → Z
    に対し、 f g が一様連続ならば g∘ f も一様連続であることを示せ。

    解答:

    g が一様連続であることから、任意の ε > 0 に対し ε′ > 0 が存在し、任意の y ∈ Y に対し
    g(U (y;ε′)) ⊂ U(g(y);ε)
    が成り立つ。この  ′ε に対し、 f が一様連続であることから、 δ > 0 が存在し、任意の x ∈ X に対し
     ′f(U (x;δ)) ⊂ U (f(x);ε)
    が成り立つ。よって任意の x ∈ X に対し
    (g ∘f)(U(x;δ)) = g(f (U (x;δ))) ⊂ g(U(f(x);ε′)) ⊂ U (g(f(x));ε)
    となり g∘f が一様連続であることが示された。
  5. 問題 5.

    1. (a) 距離空間 X に対し
      Δ = {(x,x) | x ∈ X} ⊂ X × X
      と定義する。 Δ X × X の閉集合であることを示せ。
    2. (b) 連続関数
      f : ℝ -→ ℝ
      に対し、そのグラフを
      Γ (f) = {(x,f(x)) | x ∈ ℝ }
      で定義する。このとき Γ (f) ℝ2 の閉集合であることを示せ。

    解説:

    X × X にどのように距離を定めるかを授業で説明していなかったので (a) は説明不足だった。 X ×X には以下のように距離を定め距離空間とみなす: X の距離関数を d とするとき
    d2 : (X × X )× (X × X ) -→ X × X
    d2((x1,x2),(y1,y2)) = ∘d-(x1,y1)2 +-d(x2,y2)2
    で定義する。これが距離関数の条件をみたすことはすぐ確かめられる。

    解答:

    1. (a) 補集合が閉集合であることを示す。任意の (x,x′) ∈ X - Δ に対し、 (x,x ′) ⁄∈ Δ より x ⁄= x′ である。よって
      δ = d(x,x′)
      とおくと、 δ > 0 であり
      U = U ((x,x′); δ√2)
      とおくと U ⊂ X × X - Δ である。実際、 (y,y′) ∈ U ならば
      d2((x,x′),(y,y′)) = ∘d-(x,y)2 +-d(x′,y′)2 < √δ 2
      であるが、一般に a,b > 0 に対し相加相乗平均の公式より
       2 2 2 2 2(a +b) = a + b + 2ab ≤ 2(a + b)
      であり
       ′ ′d(x,y)+ d(x ,y) < δ
      となる。ここで距離関数 d に関する三角不等式より
       ′ ′ ′ ′ ′ ′δ = d(x,x) ≤ d(x,y)+ d(y,y) +d(y ,x) < δ + d(x ,y)
      であるから
       ′ ′d(x,y ) > 0
      よって  ′ ′x ⁄= y となり  ′ ′(x ,y) ∈ X × X - Δ である。これで
      U ⊂ X × X - Δ
      が示され X × X - Δ が開集合であることが分かった。
    2. (b) (a) を用いる。写像
      g : ℝ2 -→ ℝ2
      g(x,y) = (f(x),y)
      で定義すると、これは連続である。よって g-1(Δ) は閉集合である。こ こで
       -1 2 2g (Δ ) = {(x,y) ∈ ℝ | g(x,y) ∈ Δ } = {(x,y) ∈ ℝ | f(x) = y} = Γ (f )
      であるから Γ (f ) は閉集合であることが示された。
  6. 問題 6.

    距離空間 (X, d) から (Y,d) への写像
    f : X -→ Y
    について次を示せ:
    qenarray

    解答:

    (=⇒ ) f が連続であると仮定する。 {xn} X の収束する点列とし
    x0 = nli→m∞ xn
    とおく。このとき、任意の ε > 0 に対し N が存在し
    n > N = ⇒ d(f(x ),f(x )) < ε 0 n
    を示せばよい。まず f が連続であることから
    d(x,x) < δ =⇒ d(f (x ),f(x)) < ε 0 0
    となる δ > 0 が存在する。この δ に対し、 {xn} x0 に収束することから、 N
    n > N =⇒ d(x0,xn) < δ
    であるものが存在する。よって
    n > N =⇒ d(x ,x ) < δ =⇒ d(f(x ),f(x )) < ε 0 n 0 n
    である。
    (⇐= ) 背理法で示す。 f がある点 x0 で連続でないと仮定する。するとある ε > 0 が存在し、任意の δ > 0 に対し
    d(x ,x ′) < δ かつ d(f(x ),f(x′)) ≥ ε 0 0
    となる  ′x が存在する。そこで各 n ∈ ℕ に対し  1δ = n に対するそのような 点を一つ選び xn とする。すると
     1d(x0,xn) < -- n
    であるから limn →∞ xn = x0 であるが、任意の n に対し
    d(f(x0),f (xn)) ≥ ε
    であるから {f(xn)} f(x0) = f (limn →∞ xn) に収束することはない。 これは仮定に反する。よって f は連続である。
  7. 問題 7.

    距離空間 (X, dX) から (Y,dY) への写像
    f : X -→ Y
    が任意の  ′x,x ∈ X に対し
     ′ ′dY(f(x),f(x )) ≤ dX (x,x )
    をみたすならば、一様連続であることを示せ。

    解答:

    任意の ε > 0 に対し δ = ε ととればよい。
  8. 問題 8.

    距離空間 (X, dX) から (Y,dY) への一様連続写像
    f : X -→ Y
    に対し {x }∞ n n=1 X の Cauchy 列ならば {f(x )}∞ n n=1 Y の Cauchy 列であることを示せ。

    解答:

    f が一様連続であることから、任意の ε > 0 に対し  ′ε > 0 が存在し
     ′ ′ ′dX (x,x) < ε = ⇒ dY(f(x),f(x)) < ε
    となる。また {xn} が Cauchy 列であることから、この ε′ に対し N が存在 し
    m,n > N =⇒ dX(xm,xn) < ε′
    となる。併せれば、この N に対し
    m, n > N =⇒ dY (f(xm ),f(xn)) < ε
    となり、 {f(xn)} が Cauchy 列であることが示された。