距離空間論 演習問題 第3回

  1. 問題 1.

    次の ℝ の部分集合の上限,下限,最大値,最小値を(もし存在するなら)求めよ:
    1. (a) A1 = (- 1,2)∪{3,5}
    2. (b)  1A2 = {1- n | n ∈ ℕ }
    3. (c) A = [- 5,2]∩ [1,4]c 7
    4. (d) A9 = {1- x2 | x ∈ ℝ}

    解答:

    一般に次のことを使うとよい: A ⊂ ℝ について
    max Aが存在する⇒supA = max A
    supA ⁄∈ A⇒max Aは存在しない
    min Aが存在する⇒infA = minA
    infA ⁄∈ A⇒min Aは存在しない
    1. (a) 5 ∈ A 1 かつ ∀x ∈ A 1 に対し x ≤ 5 であるから max A = 5 1 、よって supA1 = 5 である。
      次に infA1 = - 1 を示す。まず任意の x ∈ A1 に対し - 1 < x である。また任意の ε > 0 に対し
      a = min{- 1+ ε, 12}
      とする。このとき - 1 < a であるから実数の性質により
      - 1 < r < a
      となる有理数 r が存在する。 a < 1 より - 1 < r < 1 であり、よって r ∈ A 1 である。また a ≤ - 1 + ε であり
      - 1 < r ≤ - 1+ ε
      となる。よって
      inf A = - 1 1
      である。
      - 1 ⁄∈ A1 より min A1 は存在しない。
    2. (b) A2 = {0, 1, 2,⋅⋅⋅} 2 3 である。
      よって 0 ∈ A2 でありかつ ∀x ∈ A2 に対し 0 ≤ x であるから min A2 = 0 、よって infA2 = 0 である。
      次に supA2 = 1 を示す。まず任意の 1 - 1n ∈ A2 に対し 1- 1n < 1 である。また実数の性質より、任意の 1 > ε > 0 に対し
      0 < 1-< ε n
      となる整数 n が存在する。(Archimedesの定理) よって
       1-1 > 1- n > 1 - ε
      となるが、 1- 1n ∈ A2 であるから、これは sup A2 = 1 を意味する。 1 ⁄∈ A2 より max A2 は存在しない。
    3. (c) A7 = [- 5,1) である。
      - 5 ∈ A7 より - 5 = minA7 = infA7 である。
      supA = 1 7 の証明は省略。 1 ⁄∈ A 7 より max A 7 は存在しない。
    4. (d) A9 = (- ∞, 1) である。
      infA9 minA9 も存在しない。 sup A9 = 1 の証明は省略。 1 ⁄∈ A9 より max A9 は存在しない。
  2. 問題 2.

    ℝ の部分集合 A,B について次を示せ:
    1. (a) - A = {- a | a ∈ A } とおくとき, A が上に有界ならば - A は下に有界であり
      inf(- A) = - supA
      また, A が下に有界ならば - A は上に有界であり
      sup(- A ) = - infA
    2. (b) A ⊂ B のとき sup A supB が共に存在するなら
      supA ≤ supB
      また, infA infB が共に存在するなら
      infA ≥ infB

    解答:

    1. (a) 不等号の向きを変えるだけなので前半だけ証明する。
      A が上に有界とすると
      ∃s ∈ ℝ s.t. ∀a ∈ A,a ≤ s
      よって
      ∃s ∈ ℝ s.t. ∀- a ∈ - A,ーa ≥ - s
      となり - A が下に有界となる。
      次に s = supA とすると
       ( { s ≥ a,∀a ∈ As = sup A ⇐ ⇒ ( ∀ε > 0,∃a ∈ A s.t. s ≥ a ≥ s - ε ( ⇐ ⇒ { - s ≤ - a,∀ - a ∈ - A ( ∀ε > 0,∃ - a ∈ - A s.t. - s ≤ - a ≤ - s + ε
      であり、これは - s = inf(- A) を意味する。
    2. (b) これも sup の場合だけ示す。 sup の定義から
      ∀b ∈ B,b ≤ sup B
      であるが、 A ⊂ B であるから
      ∀a ∈ A,a ≤ sup B
      である。よって sup B A の上界の一つであり、 sup A A の上界の最小 値だったから
      supA ≤ supB
      である。
  3. 問題 3:

     nx,y ∈ ℝ に対し
    d(x, y) = ∥x - y∥
    とおくと次が成り立つことを示せ:
    d(x,y)+ d(y,z) ≥ d(x,z )

    解答:

    これは次の線形代数の知識を確認するための問題である: 任意の a,b ∈ ℝn に対し
    ∥a+ b∥ ≤ ∥a∥+ ∥b∥
    問題で
    a = x - yb = y - zc = x - z
    とおき上の不等式を用いるとよい。
  4. 問題 4:

    ℂ が順序体ではないことを示せ。

    解答:

    ℂ が順序体であると仮定し矛盾を導く。
    まず順序体の定義から 0 < 1 であることを示す。 (このことを証明していな い人が多かった。これは当たり前ではない。順序体の定義を使って証明すべきこと。) 0 ⁄= 1 より 0 < 1 または 1 < 0 のいづれかが成り立つ。もし 1 < 0 だとすると、両辺に - 1 を加え
    0 < - 1
    となる。よって不等式の両辺に - 1 をかけても不等号の向きは変らない。特 に、この不等式の両辺に - 1 をかけると
    0 < (- 1)2 = 1
    となり 1 < 0 という仮定に矛盾。よって 0 < 1 である。 また 0 ⁄= i より 0 < i または i < 0 のいづれかが成り立つ。 0 < i のとき、 両辺に i をかけると
    0 < i2 = - 1
    となり矛盾。 i < 0 のとき、両辺に - i を加えて
    0 < - i
    である。この不等式の両辺に - i をかけて
    0 < (- i)2 = - 1
    となりやはり矛盾。
    これは ℂ が順序体であるという仮定が間違っていることを意味している。 よって ℂ は順序体ではない。