2.1 集合
2.2 空集合
2.3 共通部分
2.4 和集合
2.5 差集合と補集合
2.6 集合の演算
2.7 直積集合
2.8 べき集合
2.9 ラッセルのパラドックス
2.10 演習問題
集合とはものの集まりのことである。しかしものの集まりをすべて集合と呼ぶわけではない。 例えば「大きい数の集まり」、「お金持ちの集まり」などはその基準が明確でなく、集合とは言えない。 あるものが集合に属するかどうかははっきりとしていなくてはいけないので、その基準は命題である。よって集合は「 に関する命題 が真となるような の集まり」という形で記述される。このとき、その集合を
集合 に属するもの を、その集合の要素、または元という。またこのとき
集合の要素を列挙することによって集合を定義することもできる。この場合、要素が であれば
集合をこのように要素を並べて表す場合、要素を並べる順番には意味がない。また同じ要素を複数書いても、それは無視される。これは、集合を考えるときには「あるものがその集合に属するか、属さないか」のみが問題とされるからである。例えば次の集合はすべて同じものとして扱われる。
二つの集合 , に対して「 」が成り立つとき を の部分集合といい または と書く。 であり、かつある があって であるとき を の真部分集合といい または と書く。
注意. 部分集合であることを , で表し、真部分集合であることを , と表す場合もある。講義などで分かりにくい場合は質問をして確認するといいだろう。
証明. とすると より である。また より である。よって である。 _
かつ である場合、「 」である。このとき二つの集合 と は等しいといい、 と書く。 のとき、二つの集合 , は全く同じ要素からなる。
前に「 以上の整数の集合」を と表したが、はじめから の部分集合を考えているということを意識する場合は
集合に含まれる要素の数が有限である場合、その集合を有限集合といい、要素の数が無限であるとき、その集合を無限集合という。有限集合 の要素の数を や などと書く。無限集合の場合は と書く。 と書かれた場合は が有限集合であることを意味する。有限集合の部分集合は明らかに有限集合である。有限、無限の定義はやや難しくなるのでここではしない。感覚的に理解しておけば十分である。
学習のポイント. 「二つの集合 , について であることを示せ」という問題を考えよう。試験などでこのような問題ができない場合、何を示せばよいのかが分かっていない場合が多く見られる。「 」の定義は「 ならば 」であるから、証明は以下のようになる。
分かってしまえば簡単なことであるが、きちんと理解しておこう。また「二つの集合 , について であることを示せ」という問題は、「 」の定義が「 かつ 」であるから、
となる。この証明は を示す部分と を示す部分からなり、その両方で同じ文字 を用いたが、それはまったく違うものである。区別がしにくいと感じるならば、後半では ではなく を用いるなどして、紛らわしさがないようにした方がよい。しかし、このような用い方はよくされることなので、ここではあえて同じ記号を用いた。証明などの中で、新しい文字 (記号) を用いるときには、
などを気にしなければならない。
証明. 「 」を示せばよいが は常に偽であるから、これは常に真である。 _
証明. , を共に空集合とすると補題 2.2.2 より , であるから である。 _
集合の共通部分について次が成り立つ。
証明. (1), (2) は定義より明らか。
(3) を示す。 ならば より なので である。よって である。また (1) より である。以上より である。
を示す。 とすると (1) より なので である。 _
証明. (1) とすると定理 2.3.3 (1) より なので である。同様に であり、よって である。したがって である。逆も同様に示される。
(2) とする。 である。 であるから かつ である。以上より かつ が成り立ち である。よって である。逆も同様に示される。 _
この定理の (1) を の交換法則といい (2) を の結合法則という。この二つの性質により三つ以上の集合の共通部分を考えるとき、カッコをつけなくてもその意味は不明にはならない。以後
例2.3.5. に対して、閉区間 を考える。このとき である。
二つの集合が等しいことを示すので、これを示すには と を示すことになる。まず任意の に対して は明らかなので である。 を示すには「 ならば (すなわち )」を示せばよい。このためにこれの対偶「 ならば 」を示す。 であることと、ある があって であることは同値である。したがって「 ならば、ある があって 」を示せばよい。。
とする。このとき明らかに である。
注意. の定義は であって ではない。なぜならば、この極限は定義されていない。
和集合について次が成り立つ。
証明. (1) は明らか。 (2) を示す。 ならば または である。まず とすると なので である。また とすると または である。 ならば である。 ならば なので である。以上より、どの場合にも となり である。逆も同様にして示すことができる。 _
この定理の (1) を の交換法則といい (2) を の結合法則という。この二つの性質により三つ以上の集合の和集合を考えるとき、カッコをつけなくてもその意味は不明にはならない。以後
明らかに次が成り立つ。
証明. とおく。
とする。 であるならば であるから または である。しかし とすると となり矛盾である。よって となり である。逆に とする。 かつ である。よって である。したがって が成り立ち、以上より である。
とする。このとき は明らかである。 _
を の部分集合とするとき、明らかに次が成り立つ。
証明. (1) とする。 なので、ある があって である。よって となり である。
逆に とする。ある があって である。よって かつ となり である。
(2) とする。 ならば、 任意の について だから である。また とすると、任意の について だから となる。よって、このときも である。
とする。 ならば である。 とする。このとき、任意の に対して より である。よって となり である。
(3) とする。このとき任意の に対して であるから である。
とする。任意の に対して なので である。
(4) は (3) とほぼ同じに示される。 _
二つのもの と を並べたもの を と から作られた順序対という。順序対 と が等しいことを かつ で定め、このとき と書く。 と が等しくないことは と書く。明らかに であることと または が成り立つことは同値である。
, を集合とする。 と とから作られた順序対 の全体からなる集合を と の直積、または直積集合と呼び で表す。
注意. と は違うものと考えなくてはならない。
一般に同じ集合いくつかの直積を次のように表す。
有限とは限らない集合の族 に対しても、その直積集合は定義できる。これを
注意. 集合の族 に対して、任意の に対して が空でないならば、直積集合 も空でないように思われる。しかしこれは後で述べる選択公理に関することであり、自明ではない。
集合 の部分集合すべての集合を のべき集合 (power set) といい , または と表す。
集合 が有限集合である場合には、それぞれの要素が部分集合に含まれるか含まれないかを決めれば部分集合が定まる。したがって の要素の数は 個あることが分かる。これがべき集合を と書く理由である。
先に述べたように、ここでは厳密な集合の定義はしていない。しかし集合のようなものの集まりでも集合ではないものが存在することに注意しておく。簡単に言えば、あまりにも大きな集まりは集合ではない場合がある。例えば「集合すべての集まり」は実は集合ではない。これに似た状況から矛盾が生じる「ラッセルのパラドックス」について説明をする。
まず空集合 は何も要素を含まないので である。このように自分自身を要素として含まない集合すべての集まり を考える。 が集合であるとする。 であるから である。
これを「ラッセルのパラドックス」という。この場合 が集合であるとした部分がおかしく、 は集合ではない。現在の数学ではこのような矛盾の起きないように集合論を構築しているが、その内容はやや難しい。ここで注意しておくことは という形で定義されたものでも集合とは限らないと言うことである。