集合論

花木章秀

目次

2 集合
2.1 集合
2.2 空集合
2.3 共通部分
2.4 和集合
2.5 差集合と補集合
2.6 集合の演算
2.7 直積集合
2.8 べき集合
2.9 ラッセルのパラドックス
2.10 演習問題

集合

集合とは、簡単に言えばものの集まりである。しかし数学的に厳密に考えると色々と問題があることが分かる。 集合を厳密に考えて、議論する「集合論」はここではやや難しすぎるので、おおまかな理論を解説するにとどめる。 ただ、何が問題なのかを分かってもらうために「ラッセルのパラドックス」については解説をする。

2.1 集合

集合とはものの集まりのことである。しかしものの集まりをすべて集合と呼ぶわけではない。 例えば「大きい数の集まり」、「お金持ちの集まり」などはその基準が明確でなく、集合とは言えない。 あるものが集合に属するかどうかははっきりとしていなくてはいけないので、その基準は命題である。よって集合は「 x に関する命題 P (x) が真となるような x の集まり」という形で記述される。このとき、その集合を

{x | P(x )}
のように表す。例えば「 100 以上の整数の集まり」であれば
{x | x ∈ ℤ かつ {x ≥ 100 }
のように表す。「かつ」というのを省略、あるいは英語で表して
{x | x ∈ ℤ, x ≥ 100}, {x | x ∈ ℤ and x ≥ 100}
のようにも表す。

集合 S に属するもの x を、その集合の要素、または元という。またこのとき

x ∈ S, S ∋ x
などと表す。この記号は既に ℤ , ℕ などに用いていたものである。 x S の要素でないことを
x ⁄∈ S, S ⁄∋ x
と表す。 S = {x | P (x )} であるとき
x ∈ S ⇐ ⇒ P (x), x ⁄∈ S ⇐⇒ ャP (x )
である。

集合の要素を列挙することによって集合を定義することもできる。この場合、要素が x1,x2, x3 であれば

{x1, x2, x3}
と表す。例えば「 10 以下の素数全体の集合」は
{n | n} = {2,3,5,7} は素数 {n ≤ 10} = {2,3,5,7}
である。要素の個数が多い場合には適当な省略をする場合もある。例えば「 1 から 100 までの整数全体の集合」は
{1,2, 3,⋅⋅⋅ ,100 }
などと表される。また無限個の要素をもつ場合にも同様の省略は用いられ
{1,2,3,⋅⋅⋅}
と書けばすべての自然数の集合という意味である。しかし省略は注意して用いないといけない。例えば {1,2,3, 5,9,10,100} などという集合を {1,2, ⋅⋅⋅ ,100} などと書いても誰も理解してくれないであろう。意味が分かりにくい場合や間違える恐れのある場合には省略はしない方がよい。

集合をこのように要素を並べて表す場合、要素を並べる順番には意味がない。また同じ要素を複数書いても、それは無視される。これは、集合を考えるときには「あるものがその集合に属するか、属さないか」のみが問題とされるからである。例えば次の集合はすべて同じものとして扱われる。

{1,2, 3}, {2, 3,1}, {1, 2,2,3,3,3,1,2 }
集合を表すときにこの例のように同じ要素を複数書いても間違えとはいえないが、意味が分かりにくくなるので、なるべく同じ要素は複数書かないようにしたほうが良い。

二つの集合 A , B に対して「 x ∈ B ⇒ x ∈ A 」が成り立つとき B A の部分集合といい B ⊂ A または A ⊃ B と書く。 B ⊂ A であり、かつある x ∈ A があって x ⁄∈ B であるとき B A の真部分集合といい B ⊊ A または A ⊋ B と書く。


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Figure2.1: B ⊂ A


注意. 部分集合であることを B ⊆ A , A ⊇ B で表し、真部分集合であることを B ⊂ A , A ⊃ B と表す場合もある。講義などで分かりにくい場合は質問をして確認するといいだろう。

定理2.1.1. A ⊂ B , B ⊂ C であるならば A ⊂ C である。

証明. x ∈ A とすると A ⊂ B より x ∈ B である。また B ⊂ C より x ∈ C である。よって A ⊂ C である。 _

B ⊂ A かつ A ⊂ B である場合、「 x ∈ A ⇔ x ∈ B 」である。このとき二つの集合 A B は等しいといい、 A = B と書く。 A = B のとき、二つの集合 A , B は全く同じ要素からなる。

前に「 100 以上の整数の集合」を {x | x ∈ ℤ か つ x ≥ 100} と表したが、はじめから ℤ の部分集合を考えているということを意識する場合は

{x ∈ ℤ | x ≥ 100}
のような記述もする。
{x ∈ S | P (x )}
という記述は、その集合が S の部分集合として考えられているということと理解すればよい。

集合に含まれる要素の数が有限である場合、その集合を有限集合といい、要素の数が無限であるとき、その集合を無限集合という。有限集合 A の要素の数を |A | ♯A などと書く。無限集合の場合は |A| = ∞ と書く。 |A | < ∞ と書かれた場合は A が有限集合であることを意味する。有限集合の部分集合は明らかに有限集合である。有限、無限の定義はやや難しくなるのでここではしない。感覚的に理解しておけば十分である。

学習のポイント. 「二つの集合 A , B について B ⊂ A であることを示せ」という問題を考えよう。試験などでこのような問題ができない場合、何を示せばよいのかが分かっていない場合が多く見られる。「 B ⊂ A 」の定義は「 x ∈ B ならば x ∈ A 」であるから、証明は以下のようになる。

分かってしまえば簡単なことであるが、きちんと理解しておこう。また「二つの集合 A , B について A = B であることを示せ」という問題は、「 A = B 」の定義が「 A ⊂ B かつ A ⊃ B 」であるから、

となる。この証明は B ⊂ A を示す部分と A ⊂ B を示す部分からなり、その両方で同じ文字 x を用いたが、それはまったく違うものである。区別がしにくいと感じるならば、後半では x ではなく y を用いるなどして、紛らわしさがないようにした方がよい。しかし、このような用い方はよくされることなので、ここではあえて同じ記号を用いた。証明などの中で、新しい文字 (記号) を用いるときには、

などを気にしなければならない。

2.2 空集合

定義2.2.1 (空集合). 要素を一つも含まないものも集合として扱う。これを空集合といい ϕ で表す。任意の x に対して x ⁄∈ ϕ である。

補題2.2.2. 任意の集合 A に対して ϕ ⊂ A である。

証明. 「 x ∈ ϕ ⇒ x ∈ A 」を示せばよいが x ∈ ϕ は常に偽であるから、これは常に真である。 _

補題2.2.3. 空集合 ϕ は唯一つに定まる。

証明. ϕ ,  ′ϕ を共に空集合とすると補題 2.2.2 より  ′ϕ ⊂ ϕ ,  ′ϕ ⊂ ϕ であるから  ′ϕ = ϕ である。 _

2.3 共通部分

定義2.3.1 (共通部分). 二つの集合 A , B に対して A ∩ B := {x | x ∈ A, x ∈ B } とおいて、これを A B の共通部分という。 A ∩ B = ϕ であるとき A B は共通部分がない、または互いに素であるという。


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Figure2.2: A ∩ B


例2.3.2. A := {1, 2,3} , B := {2,3,4, 5} とすると A ∩ B = {2,3} である。

集合の共通部分について次が成り立つ。

定理2.3.3.

  1. A ∩ B ⊂ A , A ∩ B ⊂ B
  2. C ⊂ A , C ⊂ B ⇐ ⇒ C ⊂ A ∩ B
  3. B ⊂ A ⇐ ⇒ A ∩ B = B

証明. (1), (2) は定義より明らか。

(3) =⇒ を示す。 x ∈ B ならば B ⊂ A より x ∈ A なので x ∈ A ∩ B である。よって B ⊂ A ∩ B である。また (1) より A ∩ B ⊂ B である。以上より A ∩ B = B である。

⇐= を示す。 A ∩ B = B とすると (1) より A ∩ B ⊂ A なので B ⊂ A である。 _

定理2.3.4.

  1. A ∩ B = B ∩ A
  2. A ∩ (B ∩ C ) = (A ∩ B ) ∩ C

証明. (1) x ∈ A ∩ B とすると定理 2.3.3 (1) より A ∩ B ⊂ B なので x ∈ B である。同様に x ∈ A であり、よって x ∈ B ∩ A である。したがって A ∩ B ⊂ B ∩ A である。逆も同様に示される。

(2) x ∈ A ∩ (B ∩ C) とする。 x ∈ A である。 x ∈ B ∩ C であるから x ∈ C かつ x ∈ B である。以上より x ∈ A ∩ B かつ x ∈ C が成り立ち x ∈ (A ∩ B ) ∩ C である。よって A ∩ (B ∩ C ) ⊂ (A ∩ B ) ∩ C である。逆も同様に示される。 _

この定理の (1) を ∩ の交換法則といい (2) を ∩ の結合法則という。この二つの性質により三つ以上の集合の共通部分を考えるとき、カッコをつけなくてもその意味は不明にはならない。以後

A ∩ B ∩ C, A ∩ B ∩ C ∩ D, ⋅⋅⋅
などという記法を用いる。また集合の列 A1,A2, ⋅⋅⋅ ,An に対して
⋂n Ai := A1 ∩ A2 ∩ ⋅⋅⋅ ∩ Ani=1
という記号も用いる。無限個の集合の共通部分も考えられる。例えば集合の列 A1 , A2 , ⋅⋅⋅ , An , ⋅⋅⋅ に対して
⋂∞ Ai := A1 ∩ A2 ∩ ⋅⋅⋅ ∩ An ∩ ⋅⋅⋅i=1
のような記号も用いる。集合の添字が 1,2,3,⋅⋅⋅ のようになっていなくてもよい。例えば集合 I を添字にもつ集合の族 {Ai | i ∈ I} に対しても、その共通部分を
⋂ Aii∈I
のように表す。
⋂ Ai = {x | x ∈ Ai for all i ∈ I}i∈I
である。したがって  ⋂x ∈ i∈I Ai を示したければ、任意の i ∈ I に対して x ∈ Ai を示せばよい。

例2.3.5. r ∈ ℝ >0 に対して、閉区間 Ir := [- r,r] を考える。このとき ⋂ r∈ℝ Ir = {0} >0 である。

二つの集合が等しいことを示すので、これを示すには ⋂ I ⊃ {0} r∈ℝ>0 r ⋂ r∈ℝ>0 Ir ⊂ {0} を示すことになる。まず任意の r ∈ ℝ>0 に対して 0 ∈ Ir は明らかなので ⋂ r∈ℝ>0 Ir ⊃ {0} である。 ⋂ r∈ℝ>0 Ir ⊂ {0} を示すには「  ⋂s ∈ r∈ℝ>0 Ir ならば s ∈ {0} (すなわち s = 0 )」を示せばよい。このためにこれの対偶「 s ⁄= 0 ならば  ⋂s ⁄∈ Ir r∈ℝ>0 」を示す。  ⋂s ⁄∈ Ir r∈ℝ >0 であることと、ある r > 0 があって s ⁄∈ Ir であることは同値である。したがって「 s ⁄= 0 ならば、ある r > 0 があって s ⁄∈ I r 」を示せばよい。。

s ⁄= 0 とする。このとき明らかに s ⁄∈ I|s|∕2 である。

注意. ⋂∞ i=1 Ai の定義は ⋂ i∈ℕ Ai であって  ⋂nlimn →∞ i=1 Ai ではない。なぜならば、この極限は定義されていない。

2.4 和集合

定義2.4.1 (和集合). 二 つ の 集 合 A , B に対して A ∪ B := {x | x ∈ A} または A ∪ B := {x ∈ B } とおいて、これを A B の和集合という。


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Figure2.3: A ∪ B


例2.4.2. A := {1, 2,3} , B := {2,3,4, 5} とすると A ∪ B = {1,2,3,4, 5} である。

和集合について次が成り立つ。

定理2.4.3.

  1. A ⊂ A ∪ B , B ⊂ A ∪ B
  2. A ⊂ C かつ B ⊂ C ⇐ ⇒ A ∪ B ⊂ C
  3. B ⊂ A ⇐ ⇒ A ∪ B = A

定理2.4.4.

  1. A ∪ B = B ∪ A
  2. (A ∪ B ) ∪ C = A ∪ (B ∪ C )

証明. (1) は明らか。 (2) を示す。 x ∈ (A ∪ B) ∪ C ならば x ∈ A ∪ B または x ∈ C である。まず x ∈ C とすると x ∈ B ∪ C なので x ∈ A ∪ (B ∪ C ) である。また x ∈ A ∪ B とすると x ∈ A または x ∈ B である。 x ∈ A ならば x ∈ A ∪ (B ∪ C ) である。 x ∈ B ならば x ∈ B ∪ C なので x ∈ A ∪ (B ∪ C ) である。以上より、どの場合にも x ∈ A ∪ (B ∪ C ) となり (A ∪ B ) ∪ C ⊂ A ∪ (B ∪ C ) である。逆も同様にして示すことができる。 _

この定理の (1) を ∪ の交換法則といい (2) を ∪ の結合法則という。この二つの性質により三つ以上の集合の和集合を考えるとき、カッコをつけなくてもその意味は不明にはならない。以後

A ∪ B ∪ C, A ∪ B ∪ C ∪ D, ⋅⋅⋅
などという記法を用いる。共通部分の場合と同じように
⋃n Ai := A1 ∪ A2 ∪ ⋅⋅⋅ ∪ Ani=1
⋃∞ Ai := A1 ∪ A2 ∪ ⋅⋅⋅ ∪ An ∪ ⋅⋅⋅i=1
⋃ Aii∈I
などの記号も用いる。
⋃ Ai = {x | x ∈ Ai for some i ∈ I}i∈I
である。

例2.4.5. r ∈ ℝ >0 に対して、閉区間 I := [- r,r] r を考える。このとき ⋃ r∈ℝ>0 Ir = ℝ である。

こ れ を 示 す。 ⋃ r∈ ℝ>0 Ir ⊂ ℝ は 明 ら か で あ る。 任意の s ∈ ℝ に対して、 r = 2|s| + 1 とすれば Ir ∋ s なので  ⋃s ∈ r∈ℝ>0 Ir である。よって ⋃ Ir ⊃ ℝ r∈ℝ >0 である。

2.5 差集合と補集合

定義2.5.1 (差集合). 二つの集合 A , B に対して A - B := {x | x ∈ A, x ⁄∈ B} とおいて、これを A B の差集合という。 ( B ⊂ A でなくてもよい。また差集合を A \ B と書くことも多い。)


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Figure2.4: A - B


明らかに次が成り立つ。

  1. A - B ⊂ A
  2. x ∈ A ならば x ∈ A - B または x ∈ B
  3. x ∈ B ならば x ⁄∈ A - B
  4. x ∈ A - B ならば x ⁄∈ B
  5. A - ϕ = A , A - A = ϕ

例2.5.2. A := {1, 2,3} , B := {2,3,4, 5} と す る と A - B = {1} , B - A = {4,5} である。

定理2.5.3. B ⊂ A であることと A - (A - B ) = B であることは同値である。

証明. C = A - B とおく。

B ⊂ A とする。 x ∈ B であるならば x ∈ A であるから x ∈ A - C または x ∈ C である。しかし x ∈ C = A - B とすると x ⁄∈ B となり矛盾である。よって x ∈ A - C = A - (A - B ) となり B ⊂ A - (A - B ) である。逆に x ∈ A - (A - B ) とする。 x ∈ A かつ x ⁄∈ A - B である。よって x ∈ B である。したがって A - (A - B ) ⊂ B が成り立ち、以上より A - (A - B ) = B である。

A - (A - B ) = B とする。このとき B ⊂ A は明らかである。 _

定義2.5.4 (補集合). A ⊂ M であるとき、差集合 M - A A M における補集合という。 M が明らかな場合、すなわち A を集合 M の部分集合と見ていることが明らかな場合には M - A Ac と表し、単に A の補集合という。


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Figure2.5:  cA


A M の部分集合とするとき、明らかに次が成り立つ。

  1. x ∈ M ならば x ∈ A または x ∈ Ac
  2. x ∈ A ならば x ⁄∈ Ac
  3.  cx ∈ A ならば x ⁄∈ A
  4.  cϕ = M ,  cM = ϕ
  5. (Ac)c = A

例2.5.5. A を (正の) 奇数全体の集合とし B を (正の) 偶数全体の集合とする。 A ℕ における補集合は B であり B ℕ における補集合は A である。

例2.5.6. a,b a ≤ b である二つの実数とする。 A を閉区間 [a,b] とする。 A の( ℝ における) 補集合は  cA = (- ∞, a) ∪ (b,∞ ) である。

2.6 集合の演算

定理2.6.1. M を集合とし A , B , C はその部分集合とする。補集合は M で考える。このとき次が成り立つ。

  1. A ∩ Ac = ϕ
  2. A ∪ Ac = M
  3. (ド・モルガンの公式)  c c c(A ∩ B ) = A ∪ B
  4. (ド・モルガンの公式) (A ∪ B )c = Ac ∩ Bc
  5. A ∩ (A ∪ B ) = A
  6. A ∪ (A ∩ B ) = A

定理2.6.2. M を集合とし、 M の部分集合 A と部分集合の族 {Bi }i∈I を考える。補集合は M で考える。このとき次が成り立つ。

  1.  ( )A ∩ ⋃ Bi = ⋃ (A ∩ Bi) i∈I i∈I
  2.  (⋂ ) ⋂A ∪ i∈I Bi = i∈I(A ∪ Bi)
  3. (⋃ ) ⋂ i∈I Bi c = i∈I Bic
  4. (⋂ B )c = ⋃ B c i∈I i i∈I i

証明. (1)  (⋃ )a ∈ A ∩ i∈I Bi とする。  ⋃a ∈ i∈I Bi なので、ある i ∈ I があって a ∈ Bi である。よって a ∈ A ∩ Bi となり  ⋃a ∈ i∈I(A ∩ Bi) である。

逆に a ∈ ⋃ (A ∩ B ) i∈I i とする。ある i ∈ I があって a ∈ A ∩ B i である。よって a ∈ A かつ  ⋃a ∈ i∈I Bi となり  (⋃ )a ∈ A ∩ i∈I Bi である。

(2)  (⋂ )a ∈ A ∪ i∈I Bi とする。 a ∈ A ならば、 任意の i ∈ I について a ∈ A ∪ Bi だから  ⋂a ∈ i∈I(A ∪ Bi ) である。また  ⋂a ∈ i∈I Bi とすると、任意の i ∈ I について a ∈ Bi だから a ∈ A ∪ Bi となる。よって、このときも a ∈ ⋂ (A ∪ B ) i∈I i である。

 ⋂a ∈ i∈I(A ∪ Bi) とする。 a ∈ A ならば  (⋂ )a ∈ A ∪ i∈I Bi である。 a ⁄∈ A とする。このとき、任意の i ∈ I に対して a ∈ A ∪ Bi より a ∈ Bi である。よって  ⋂a ∈ i∈I Bi となり  (⋂ )a ∈ A ∪ i∈I Bi である。

(3) a ∈ ( ⋃ B )c i∈I i とする。このとき任意の i ∈ I に対して a ⁄∈ B i であるから  ⋂ ca ∈ i∈I Bi である。

 ⋂ ca ∈ i∈I Bi とする。任意の i ∈ I に対して a ⁄∈ Bi なので  (⋃ )ca ∈ i∈I Bi である。

(4) は (3) とほぼ同じに示される。 _

問2.6.3. 上の定理の (4) を証明しなさい。

2.7 直積集合

二つのもの a b を並べたもの (a,b) a b から作られた順序対という。順序対 (a,b) (a′,b′) が等しいことを a = a′ かつ b = b′ で定め、このとき (a,b) = (a′,b′) と書く。 (a,b)  ′ ′(a ,b) が等しくないことは  ′ ′(a,b) ⁄= (a ,b) と書く。明らかに  ′ ′(a,b) ⁄= (a ,b) であることと  ′a ⁄= a または  ′b ⁄= b が成り立つことは同値である。

A , B を集合とする。 a ∈ A b ∈ B とから作られた順序対 (a,b) の全体からなる集合を A B の直積、または直積集合と呼び A × B で表す。

A × B := { (a, b) | a ∈ A, b ∈ B }
三つ以上の集合に対しても直積は定義できる。
A × B × C := {(a,b,c) | a ∈ A, b ∈ B, c ∈ C }
などとすればよい。

注意. A × B B × A は違うものと考えなくてはならない。

一般に同じ集合いくつかの直積を次のように表す。

 n 個 n ◜----◞◟---◝A := A × ⋅⋅⋅ × A

例2.7.1. 座標平面上の点は、その座標を用いて (x,y) のように書くことができる。これは座標平面と直積集合 ℝ2 = ℝ × ℝ が本質的に同じものであることを示している。同様に座標空間は  3ℝ と思うことができる。

問2.7.2. A = {1,2,3} , B = {a,b} とするとき、直積集合 A × B の元をすべて書け。

例2.7.3. A , B を有限集合とする。このとき直積集合 A × B も有限集合で

|A × B | = |A | × |B|
が成り立つ。

有限とは限らない集合の族 {Ai}i∈I に対しても、その直積集合は定義できる。これを

∏ Aii∈I
とかく。

例2.7.4. 集合の族 {Ai}i∈I を考える。ある i ∈ I に対して Ai = ϕ であるならば ∏ i∈I Ai = ϕ である。

注意. 集合の族 {Ai}i∈I に対して、任意の i ∈ I に対して Ai が空でないならば、直積集合 ∏ i∈I Ai も空でないように思われる。しかしこれは後で述べる選択公理に関することであり、自明ではない。

2.8 べき集合

集合 A の部分集合すべての集合を A のべき集合 (power set) といい  A2 , または P (A ) と表す。

例2.8.1.

  1. A = {1,2} に対して 2A = {ϕ,{1 },{2},{1,2 }} である。
  2. A = {1,2,3} に対して  A2 = {ϕ,{1},{2 },{3},{1, 2},{1,3},{2, 3},{1,2,3} } であ る。

集合 A が有限集合である場合には、それぞれの要素が部分集合に含まれるか含まれないかを決めれば部分集合が定まる。したがって 2A の要素の数は 2|A| 個あることが分かる。これがべき集合を 2A と書く理由である。

2.9 ラッセルのパラドックス

先に述べたように、ここでは厳密な集合の定義はしていない。しかし集合のようなものの集まりでも集合ではないものが存在することに注意しておく。簡単に言えば、あまりにも大きな集まりは集合ではない場合がある。例えば「集合すべての集まり」は実は集合ではない。これに似た状況から矛盾が生じる「ラッセルのパラドックス」について説明をする。

まず空集合 ϕ は何も要素を含まないので ϕ ⁄∈ ϕ である。このように自分自身を要素として含まない集合すべての集まり A := {X | X ⁄∈ X } を考える。 A が集合であるとする。 ϕ ∈ A であるから A ⁄= ϕ である。

これを「ラッセルのパラドックス」という。この場合 A が集合であるとした部分がおかしく、 A は集合ではない。現在の数学ではこのような矛盾の起きないように集合論を構築しているが、その内容はやや難しい。ここで注意しておくことは {x | P(x )} という形で定義されたものでも集合とは限らないと言うことである。

2.10 演習問題

  1. A ⊂ B とするとき次を示せ。
    1. A ∩ C ⊂ B ∩ C
    2. A ∪ C ⊂ B ∪ C
  2. A ∩ B = ϕ ならば (A ∪ B) - B = A であることを示せ。
  3. A ∩ C = B ∩ C かつ A ∪ C = B ∪ C ならば A = B であることを示せ。
  4. 自然数 ℕ で添字付けられた集合の族 {An | n ∈ ℕ} に対して
     ∞⋃ ⋂∞Bm = Aj, Cm = Aj j=m j=m
    とおく。このとき次を示せ。
    1. ⋂ ∞ Bm m=1 は無数に多くの An に含まれる元の全体である。
    2. ⋃ ∞m=1 Cm はある番号以上のすべての An に含まれる元の全体である。
    3. m > n ならば Am ⊂ An であるとする。このとき ⋂ ∞ ⋃ ∞ m=1 Bm = m=1 Cm であることを示せ。