集合論

花木章秀

目次

1 論理の基本
1.1 命題
1.2 真理表
1.3 「任意の...」と「ある...」

Chapter1
論理の基本

ここでは数学を学ぶ上で最も基本的である論理学の基本について学ぶ。多くのことは既に知っていることであると思うが、それらを確認しておくということは大事である。勉強をしていて、何かが分からないときには、自分が何を理解していないのかを考えてみると良い。多くの場合、理解できていないのはそのとき勉強していることではなく、もっと前に段階にある。そして、それが実はここで学ぶ論理の部分であるということも少なくはないのである。

1.1 命題

それが真 (true) であるか偽 (false) であるかがはっきりとしている事柄を命題という。例えば以下は命題の例である。

  1. 4 は偶数である。
  2. 偶数は4 の倍数である。
  3. 犬は動物である。
  4. 猫は犬である。

もちろん (1), (3) は真で (2), (4) は偽である。 (2) にはやや注意が必要である。偶数のうちには4 の倍数も含まれているので (2) は真であったり、偽であったりするように思われる。しかし、実は (2) は

  1. すべての偶数は4 の倍数である。

ということを主張していると理解されるのである。したがって一つでも4 の倍数でない偶数 (例えば2 ) があれば偽であるということになるのである。

以下は命題ではない例である。

  1. 大学の先生は頭がいい。
  2. 6 は良い数である。
  3. 100 は大きな数である。
  4. 犬と猫は仲が悪い。
  5. イチローは野球がうまい。

どれも明確な基準が定められておらず、真か偽か判定できない。

自然数n に対して

  1. : n は偶数である。
  2. : n 4 の倍数である。

とするとn を定めればA , B 共に真か偽かが定まり、これらは命題である。真であるか偽であるかがn に依存するので、このような場合は単にA , B とは書かずにA (n ) , B (n) などと書くこともある。

  1. : A (n) ならばB (n) である (偶数は4 の倍数である)。
  2. : B (n) ならばA (n) である (4 の倍数は偶数である)。

とおくと、これらも命題でありC は偽、D は真である。C D n には依存しない命題である。ここでA(n ) B(n) は命題であり「A (n) ならばB (n) である」というのも命題であることに注意する。

一般に「A ならばB である」ということをA ⇒ B またはB ⇐ A と書く。命題B ⇒ A を命題A ⇒ B の逆命題、または単に逆という。ある命題が真であっても、その逆が真であるとは限らない。命題A ⇒ B が真であるときA B の十分条件といい、B A の必要条件という。命題A ⇒ B と命題B ⇒ A が共に真であるときA B の必要十分条件といいA ⇔ B と書く。明らかに、このときB A の必要十分条件でもある。A ⇔ B であるとき命題A B は同値であるともいう。同値な命題を同じ命題と考えることもある。

二つの命題A , B が同時に真であるときに真であると定めた命題をA ∧ B と書きA かつB と読む。二つの命題A , B の少なくとも一方が真であるときに真であると定めた命題をA ∨ B と書きA またはB と読む。A ∧ B A and B A ∨ B A or B などとも書く。

例1.1.1. 自然数n に対して

A (n)
: n 2 の倍数である。
B (n)
: n 3 の倍数である。

とすれば

A (n) ∧ B(n)
: n 2 の倍数であり、かつ3 の倍数である。
A (n) ∨ B(n)
: n 2 の倍数、または3 の倍数である。

などとなる。明らかに

  1. : n 6 の倍数である。

A(n ) ∧ B (n ) であるための必要十分条件である。

命題A に対して、A が偽のときに真と定めた命題をャA と書きA の否定、またはA でないと読む。明らかにャ (ャA ) A の必要十分条件である。

命題B ⇒ A が真であるとき、命題ャA ⇒ ャB は常に真となる。これをB ⇒ A の対偶という。ャA ⇒ ャB の対偶はB ⇒ A となるので、ャA ⇒ ャB であることはB ⇒ A となることの必要十分条件である。

対偶が常に真であるということは次のように考えると理解しやすい。B ⇒ A ということは、B A よりも “強い” ということである。図で表すと Figure 1.1 のようになる。


PIC

Figure1.1: B ⇒ A


よってこのときャA ャB よりも “強く”、ャA ⇒ ャB が成り立つのである。

例1.1.2. 「B (n) ならば A (n) である」という命題の否定は「B(n ) であってもA (n) でないことがある」である。「B(n ) ならばA (n ) でない」とはならないことに注意する。これについては後で詳しく学ぶ。

命題B ⇒ A を考える。A が真であれば、この命題は常に真である。例えば

  1. : B ならば1 + 1 = 2 である。

という命題はB が真であるか偽であるかにかかわらず、常に真である。この対偶を考えるとャA ⇒ ャB A が真、すなわちャA が偽であれば常に真となる。よって命題B ⇒ A B が偽であればA が真であるか偽であるかにかかわらず、常に真である。

論理についての基本的な事柄をまとめておく。証明は与えない。同様のことが後に学ぶ集合に対しても成り立つ。

定理1.1.3.

  1. A ∧ (ャA ) は常に偽である。
  2. A ∨ (ャA ) は常に真である。
  3. A = ⇒ A は常に真である。
  4. A ∧ B ⇐ ⇒ B ∧ A
  5. A ∨ B ⇐ ⇒ B ∨ A
  6. A ∧ (B ∧ C ) ⇐ ⇒ (A ∧ B ) ∧ C
  7. A ∨ (B ∨ C ) ⇐ ⇒ (A ∨ B ) ∨ C
  8. ャ(ャA ) ⇐ ⇒ A
  9. (ド・モルガンの公式) ャ (A ∧ B ) ⇐ ⇒ (ャA ) ∨ (ャB )
  10. (ド・モルガンの公式) ャ (A ∨ B ) ⇐ ⇒ (ャA ) ∧ (ャB )
  11. A ∧ (A ∧ B ) ⇐ ⇒ A ∧ B
  12. A ∨ (A ∨ B ) ⇐ ⇒ A ∨ B
  13. A ∨ (A ∧ B ) ⇐ ⇒ A
  14. A ∧ (A ∨ B ) ⇐ ⇒ A

例1.1.4. (ャA ) =⇒ A は常に偽であるように思われるが、先に述べたようにA が真であればこれは真である。

注意. A が偽であれば、任意の命題B に対してA =⇒ B は真になるのだが、これが感覚的に受け入れがたいという学生も少なくはない。先の説明ではA =⇒ B を感覚的に理解したが、正確にはA = ⇒ B の定義が(ャA ) ∨ B であり、認めてもらうしかない。

1.2 真理表

前の節で述べたことを理解するには真理表と呼ばれる表を用いるとよい。ある命題が真であることを1 , 偽であることを0 と表すことにする。二つの命題A , B を考えるとき、それが真であるか偽であるかの可能性は 4 通りある。A, B によって定まる基本的な命題については以下の通りである。

------------------------------------------------------------A---B--ャA---ャB---A-∧-B---A-∨-B---A-⇒--B--B--⇒-A---A-⇔--B--1 1 0 0 1 1 1 1 11 0 0 1 0 1 0 1 00 1 1 0 0 1 1 0 00 0 1 1 0 0 1 1 1-----------------------------------------------------------
このような表を真理表と呼ぶ。上の表にある関係は定義であり説明はできないが、前節の感覚的な説明と矛盾しないようになっている。ここに書いたもの以外の命題の多くは、これらの命題を組み合わせることによって得られる。

例1.2.1. 真理表を用いて、ド・モルガンの公式を示してみよう。

-----------------------------------------------------------A--B---ャ(A-∧-B-)--(ャA-) ∨-(ャB-)-ャ(A--∨-B)--(ャA-) ∧-(ャB-)-1 1 0 0 0 01 0 1 1 0 00 1 1 1 0 0-0--0-------1-----------1------------1------------1-------
ャ(A ∧ B ) を表す列と(ャA ) ∨ (ャB ) を表す列が等しいことからャ (A ∧ B) ⇐ ⇒ (ャA ) ∨ (ャB ) が分かる。ャ (A ∨ B ) ⇐ ⇒ (ャA ) ∧ (ャB ) も同様である。

例1.2.2. 真理表を用いて、ある命題と、その対偶が同値であることを示してみよう。

------------------------------------------A B A ⇒ B ャA ャB (ャB ) ⇒ (ャA )------------------------------------------1 1 1 0 0 11 0 0 0 1 00 1 1 1 0 10 0 1 1 1 1------------------------------------------
これによって命題とその対偶の同値性が分かる。

例1.2.3. 命題A ⇒ B B ⇒ C が共に真であるとき、A ⇒ C も真である。これを真理表を用いて示してみよう。

----------------------------------------------------------------------------------A--B--C---A-⇒-B--B-⇒--C--(A-⇒-B)-∧(B-⇒-C-)-A-⇒--C--(A-⇒-B)-∧(B-⇒-C-) =⇒-(A-⇒--C)-1 1 1 1 1 1 1 11 1 0 1 0 0 0 11 0 1 0 1 0 1 11 0 0 0 1 0 0 10 1 1 1 1 1 1 10 1 0 1 0 0 1 10 0 1 1 1 1 1 1-0--0---0----1-------1------------1------------1-----------------1---------------

問1.2.4. ャ(A ⇒ B) A ∧ (ャB ) が同値な命題であることを真理表を用いて示せ。

注意. 先に述べたようにA ⇒ B の定義は(ャA ) ∨ B である。

1.3 「任意の...」と「ある...」

数学では「任意の⋅⋅⋅ に対して⋅⋅⋅ である」とか「ある⋅⋅⋅ が存在して⋅⋅⋅ である」などという言い方がよく使われる。これらの意味をきちんと理解していないと、証明などが理解できない。まずは例を見てみよう。

  1. : 任意の実数x に対してx2 ≥ 0 である。

A の否定は何であろうか。 A が偽であるということは、一つでも 2x ≥ 0 が成り立たない実数x が存在すればよい。したがって

  1. : ある実数x が存在してx2 < 0 である。

となる。より自然にいえば「x2 < 0 となる実数x が存在する」ということになる。次に実数列S = {a ,a ,⋅⋅⋅}1 2 に対して次の命題を考える。

  1. : ある自然数n が存在してan < 0 である。

この否定は何であろうか。一つでもan < 0 となる自然数n が存在すればB (S) は真になるので、B (S ) が偽になるためには、すべての自然数n に対してan ≥ 0 でなければならない。よって

  1. : 任意の自然数n に対してan ≥ 0 である。

となる。

以上のように「任意の⋅⋅⋅ に対して⋅⋅⋅ である」と「ある⋅⋅⋅ が存在して⋅⋅⋅ である」ということは、否定によって互いに移り会うものなのである。しっかりと覚えておこう。

数学の教科書などでは、先の例のように命題をきちんと文章で表している場合がほとんどであるが、講義などでは適当に省略した記号を用いる場合が多い。この記号が理解できないことも講義が分からなくなる一つの要因である。ここできちんと理解しておこう。

まず、数学でよく用いられる記号を確認する。

  1. := 自然数全体の集合 (0 を含める場合もあるが、ここでは含めない)
  2. := 整数全体の集合 (普通の整数は有理整数ともいう)
  3. := 有理数全体の集合
  4. := 実数全体の集合
  5. := 複素数全体の集合

非負整数全体をℤ ≥0 , 負の整数全体をℤ <0 などと書くこともある。:= の記号は左辺を右辺で定めるという意味であるが、人によって違う記号を用いる場合もある。また集合という言葉は後できちんと説明するが、ここでは単に「自然数全体の集まり」のように理解すればよい。n が自然数であるということをn ∈ ℕ と表す。他の記号についても同様である。

さて「任意の自然数n に対して⋅⋅⋅ 」ということを記号で「∀n ∈ ℕ に対して⋅⋅⋅ 」などと書く。「ある自然数n に対して⋅⋅⋅ 」ということは記号で「∃n ∈ ℕ に対して⋅⋅⋅ 」などと書く。∀ は All の A を引っくり返したもの、∃ は Exists の E を引っくり返したものである。次の命題はすべて同じことを言っている。

  1. : 任意の実数x に対してx2 ≥ 0 である。
  2. : ∀x ∈ ℝ に対してx2 ≥ 0 である。
  3. : ∀x ∈ ℝ , x2 ≥ 0 .
  4. :  2x ≥ 0 , ∀x ∈ ℝ .
  5. : x2 ≥ 0 for all x ∈ ℝ .
  6. : x2 ≥ 0 for any x ∈ ℝ .
  7. :  2x ≥ 0 for every x ∈ ℝ .
  8. : ∀x ∈ ℝ (x2 ≥ 0) .
  9. : ∀x (x ∈ ℝ =⇒ x2 ≥ 0) .

all, any, every は英語としては、その与えるニュアンスが異なるが、論理的には同じと思ってよい。同様に次も同じことである。

  1. : ある実数x に対してx2 < 0 である。
  2. : ∃x ∈ ℝ に対して 2x < 0 である。
  3. : ∃x ∈ ℝ , x2 < 0 .
  4. : x2 < 0 , ∃x ∈ ℝ .
  5. :  2x < 0 であるようなx ∈ ℝ が存在する。
  6. : ∃x ∈ ℝ such that x2 < 0 .
  7. : ∃x ∈ ℝ s.t. x2 < 0 .
  8. :  2x < 0 for some x ∈ ℝ .
  9. : ∃x ∈ ℝ (x2 < 0) .
  10. :  2∃x ((x ∈ ℝ ) ∧ (x < 0 )) .

∃x such that B 」というのは「B であるようなx が存在する」ということを英語で言っているだけである。「such that」を省略して「s.t.」と書くことも多い。次の二つの命題を考えよう。

  1. : ∀r ∈ ℝ , ∃n ∈ ℕ , r < n .
  2. : ∃n ∈ ℕ , ∀r ∈ ℝ , r < n .

この二つは記述してある順番が違うだけである。同じ意味だろうか。実はこれは全く違う意味なのである。それは文章にして読んでみれば分かる。

  1. : 任意のr ∈ ℝ に対して、あるn ∈ ℕ が存在してr < n である。
  2. : あるn ∈ ℕ が存在して、任意のr ∈ ℝ に対してr < n である。

C は与えられたr ∈ ℝ に対してn ∈ ℕ を決めればよいので真である。一方D r ∈ ℝ に関係なくn ∈ ℕ が存在しなければならず偽である。このように省略した記号は便利ではあるが、間違えをおかしやすいものである。試験の答案などにはきちんとした文章を書くことを勧める。

注意. 上の命題C をより自然な言葉で「任意のr ∈ ℝ に対してr < n となるようなn ∈ ℕ が存在する」と読むこともできる。しかしこの場合、

  1. 任意のr ∈ ℝ に対して、r < n となるようなn ∈ ℕ が存在する
  2. 任意のr ∈ ℝ に対してr < n 、となるようなn ∈ ℕ が存在する

と句点を入れてみると (1) はC を、 (2) はD を表している。このように命題を記述する場合には、その意味が明らかとなるように細心の注意が必要となる。通常は、句点がない場合にもその文脈からどちらの意味であるかが読み取れることが多いが、少なくとも試験ではきちんと区別しなくてはならない。

上のC , D の否定を求めておく。文章から否定を考えるのはやや難しいが、記号を用いた場合には簡単であることが分かるだろう。

  1. : ∃r ∈ ℝ , ∀n ∈ ℕ , r ≥ n .
  2. : あるr ∈ ℝ があって、任意のn ∈ ℕ に対してr ≥ n である。
  3. : ∀n ∈ ℕ , ∃r ∈ ℝ , r ≥ n .
  4. : 任意のn ∈ ℕ に対して、あるr ∈ ℝ があってr ≥ n である。

もちろんャC は偽でャD は真である。

これをもう少し詳しく説明しよう。命題C は丁寧に書くと以下のようになる。

  1. : ∀r ∈ ℝ (∃n ∈ ℕ (r < n )).

ここで (r < n ) はr n に関する命題である。 (∃n ∈ ℕ (r < n )) はr のみに関する命題である。なぜならばn はこの中で定義されているので、これは特定のn に関することをいっている訳ではないからである。同様に考えて命題C はどの変数にも依存しない命題である。ャC は以下のように解釈される。

  1. : ∃r ∈ ℝ ャ (∃n ∈ ℕ (r < n )).
  2. : ∃r ∈ ℝ (∀n ∈ ℕ ャ (r < n )).
  3. : ∃r ∈ ℝ (∀n ∈ ℕ (r ≥ n )).

例1.3.1 (ε -δ 論法). 関数y = f(x) x = a で連続であるとは、以下の条件を満たすこととして定義される。

[定義] 任意の正の数ε に対して、ある正の数δ があって|x - a | < δ ならば|f (x) - f (a)| < ε が成り立つ。

例えばy = f(x ) = 2x という関数は任意のx = a において連続であるが、それは以下のように証明される。

証明. ε を任意の正の数とする。δ = ε∕2 とする。このとき|x - a| < δ ならば

|f (x) - f(a)| = |2x - 2a | = 2|x - a| < 2δ = ε
である。 (証明終り)

ここで重要なのは「ある正の数δ があって」といっているので本当にδ を決めてやる必要があるということである。δ = ε∕2 というのは本質的ではなく、例えばδ = ε∕3 でも構わない。存在することをいいたいのだから、少なくとも一つの例を見せればいいのである。

さて、次に連続でないことを証明してみよう。y = f(x) x < 0 のとき0 x ≥ 0 のとき1 で定めるとする。このとき、この関数はx = 0 で連続でないことは分かるだろう。これを上の定義にしたがって証明する。連続でないことを示したいので定義を否定すればよい。このままで考えるとやや難しいので、連続の定義を記号を用いて書き直してみる。

[定義] ∀ε > 0 , ∃ δ > 0 , ∀x ∈ ℝ (|x - a | < δ = ⇒ |f(x) - f(a)| < ε ).

これを否定するので、連続でないということは

∃ε > 0 , ∀δ > 0 ∃x ∈ ℝ ャ (|x - a| < δ = ⇒ |f(x) - f(a )| < ε ).

ャ (|x - a | < δ = ⇒ |f(x) - f(a)| < ε ) は「|x - a| < δ and |f(x) - f(a)| ≥ ε 」ということである (問 1.2.4 )。したがって、いいたいことは

∃ε > 0 , ∀δ > 0 , ∃x ∈ ℝ ((|x - a| < δ ) ∧ (|f (x) - f(a)| ≥ ε )).

ということになる。さて証明をしてみよう。∃ε > 0 となっているのでε をきちんと決めてやらなくてはならないことに注意する。x ∈ ℝ も同様に決めてやる必要がある。

証明. ε = 1∕2 とする。任意の δ > 0 に対してx = - δ∕2 とすれば|x - 0| = δ∕2 < δ であって|f(x ) - f (0 )| = |0 - 1| = 1 ≥ 1∕2 = ε である。 (証明終り)

この証明でx δ によって決まっていることに注意しよう。このような場合「x の取り方はδ に依存する」などという言い方をする。またこの場合もε x はこのように決めなくてはならないわけではなく、例えばε = 1∕4 , x = - δ∕5 などでも構わない。ε をどのように決めるかは問題によって異なり、自分で考えるしかない。

注意. 数学の講義では「命題 1. ⋅⋅⋅ 」などと書かれることが多い。ここで言う命題とは「真である命題」を示している。その意味は「定理」、「補題」などと同じであると思ってよい。確認のため、よく使われる言葉などをまとめておこう。

命題 : (真の) 命題
定理 : 重要な (真の) 命題
補題 : それ自身はあまり重要ではないが、定理の証明などに用いられる (真の) 命題
系 : 定理や命題から容易に導かれる (真の) 命題
定義 : 言葉や記号を定めること
公理 : 明らかに成り立つものとして仮定されること (基本的すぎて証明できない)
予想 : 真であることが期待されるが、証明はされていない (真か偽か分からない) 命題(実は真偽が定まらず、命題でないこともある)