電子プローブX線マイクロアナライザ(参考)

Electron probe X-ray microanalyzer (EPMA、XMA)
分析機器総覧、1993より引用

原理

電子線を物質の表面に照射すると、電子と物質との相互作用の結果、特性X線、反射電子、あるいは二次電子などの量子が発生する。 (図1参照)。これ等の量子は物質の性質を示す情報の媒体である。 その中で主に特性X線を検出して物質の微小領域を非破壊で元素分析する装置がX線マイクロアナライザ(Electron probe X-raymicroanalyzer: EPMA)である。

pic

原理的構成

大別して図2のように、電子線の照射系、試料ステージ、X線分光器、電子走査装置、コンピュータ制御とデータ処理系に分けられる。 電子線を扱う部分は照射系あるいは鏡筒と呼ばれ約10-3~10-4 Pa程度の真空に保たれている。 電子線は、フイラメント、ウェネルト円筒、陽極からなる電子銃から放射され、 一般的に1~50kVの電圧で加速されている。 この電子線は、集束レンズ及び対物レンズの電磁レンズ作用で細く絞られ、試料室内の試料に照射される。 試料上での電子線は直径40Å~1μ㎜(1Å=10-7㎜、1μ㎜=10-3㎜)程度になるが、 分析目的に応じ径100μm以上に電磁レンズの励磁を変えて調整できる。 このように細く絞られた電子線の束を電子プローブ(Electron probe)という。 試料上の目的とする任意の分析場所に電子プローブを照射するため、 試料は水平動、上下動、回転などの移動機構を備えた試料ステージに装着される。 分析位置は一般的に照射系内(又は試料室内)に組込まれた、光学顕微鏡(倍率約400)で試料表面を観察して決めるか、 後述の電子走査装置でブラウン管上の走査像を観察して決める。 電子プローブで照射された試料表面から発生するX線には、試料を構成する元素に固有の波長をもつ特性X線が含まれている。 特性X線の波長λは、原子番号と次式Moseleyの法則で結びつけられている。

λ=C1/(Z一σ)2、 Z:原子番号、C1、σ:定数

λをX線分光器で測定すれば、Zを知ることができ、従って試料を構成する元素がわかる。 またX線のエネルギーはλ(Å)とE(KeV)≒12.4/λの関係があるので、エネルギーの値より元素を知ることもできる。

X線分光器には、特性X線λを分光結晶の回折を利用して検出する波長分散形分光器(Wavelength dispersive spectrometer; WDS)と、 半導体検出器で直接X線エネルギーを検出するエネルギー分散形分光器(Energy dispersive spectrometer; EDS)とがある。

WDSではBraggの法則と呼ばれる条件

nλ=2d sinθ、 d:分光結晶の面間隔、θ:X線の結晶への入射角及び反射角、 n:結晶での反射次数(正の整数)、 を満足する波長のX線だけが結晶格子でより分けられ、ガス電離形X線検出器で検出される。 検出器は、X線量子数1個に対して1個の電気信号パルスを発生する。

EDSでは半導体検出器に入射したX線は、その工ネルギーに比例した数の電子―正孔対を半導体中に作り、 電気信号を発生させる。この電気信号の大きさを多重波高分析器で識別することにより、 X線のエネルギー値Eを知り試料構成元素を検出することができる。

以上のように検出された特性X線の電気信号は、 試料の元素濃度を調べるためX線計数系でX線強度の計数を行い、 数字表示器に表示したり、プリンタに打出したり、計数率としてペンレコーダに記録させたりする。 また試料面上の元素濃度分布を調べるため電子走査装置で、電子プローブを試料上を走査させながらX線を検出し、 X線計数系を経た信号を電子プローブと同期してブラウン管ディスプレイ上に、 X線強度分布像として表示させたり、写真撮影することもできる。 電子走査装置は、電子プローブの走査制御と試料からの各種量子を電気信号としてブラウン管面に走査像として表示するものである。 電子ブローブが試料面上を走査すると、試料の各微小部分においてはその構成物質、幾何学的形状、 その他物理的性質によって量子の発生率が変化する。テレビのラスターのように電子プローブを走査し、 これと同期して走査するブラウン管の輝度を信号で変調、例えば図1の反射電子の強度(反射電子検出器の電気信号)で変調すると、 平均原子番号に依存した試料像が得られる。二次電子の強度(二次電子検出器の電気信号)で変調すると幾何学的形状を示す試料像が得られる。 特性X線強度で変調すると、前述の分光器で検出された電気信号パルスは1個のX線量子がブラウン管上1個の輝点として現われるので、 試料上の元素濃度の高い部分が輝点の密集した試料像となる。

これ等の試料像の倍率は、電子プローブの走査範囲に対するブラウン管の輝点走査範囲の比であり、 高倍率像は電子プローブ走査を試料上狭くする(調整可変)ことにより得られる。このように電子走査装置により、 各種量子信号を用いた顕微鏡像を得ることができる。

コンピュータ制御とデータ処理

前述の基本的な原理構成で作られているEPMAも最近は、ほとんどコンピュータ化され自動X線マイクロアナライザとなっている。 電子銃部と電磁レンズ部の照射系、試料ステージの駆動系、X線分光系、X線計数系、 電子走査装置系などの制御と、試料から得られる情報の処理、 時にX線の測定結果を元素濃度として正しく求めるための各種物理的補正計算とデータ表示法などが、ミニコンピュータで行われている。

特徴

非破壊分析: 加速された電子を照射した試料表面から放射される特性X線などの波長、 又はエネルギーを測定し、元素を決定する分析方法であるから、EPMAは非破壊元素分析装置である。

微小領域分析: 加速された電子は電磁レンズで前述のように細く絞られ、 電子プローブとして試料上の極微領域を照射するので、X線マイクロアナライザの“マイクロ''の意味する微小領域分析装置である。

多様性: 特性X線以外に反射電子の原子番号依存性を利用した組成分析、 二次電子の形状依存性を利用した形態観察、発光する光を利用したカソードルミネッセンス分析、 半導体素子の接合部に発生する内部起電力の測定観察法など、電子照射によって発生する量子情報のことごとくを、 それぞれ分析に利用できる多様性のある装置である。

複合構成: 装置的にみると、電子光学、精密、真空、光学、分光、放射線計測、映像、コンピュータなどの工学技術を総合して作られているが、 より分析機能を向上させるため照射電子強度の直接測定器、多元素同時分析用の多分光器装着、大形試料も扱える試料ステージと高遼駆動、 情報の短時間収集と処理を行うX線計測器、分析データのカラー画像表示装置などが最新の装置には、組込まれている。

用途

基礎研究用分析のみならず、資源、エネルギー、公害などの検査、品質管理の広い分野に使用される。 とリわけ金属固溶体の相、変態、粒界、析出物、介在物、地質鉱物の岩石、鉱石、いん石、 セラミックス、セメント、ガラス、化学の触媒、塗料、プラスチック、ゴム、石油、 生物医学の歯、骨、組織、葉、根、電子工学の半導体材料、集積回路、電気部品など広い分野の非破壊微小領域元素分析、 観察等に応用されている。