真空の形成とその測定法(参考)

(実験化学講座第4版 2 基本操作IIより引用、一部改変)
  1. 真空の単位 真空の残留気体の圧力は真空度とも呼ばれ、真空の度合を表す尺度として用いられている。 圧力は単位面積当りにかかる力として定義される。圧力の単位については、特に低圧(真空)によく用いられる単位を説明する。 相互換算表は別表2・19(PDFファイル参照)に示した。また真空ポンプの種類と到達真空度をPDFファイル、図2・63に示した。

    1. パスカル[Pa]:SI単位系で用いられている単位で、1m2あたり1 Nの力が加わ場合の圧力が1Paである。 国際度量衡会議においてはこのSI単位系を使用することが決められているため次第にこの単位の使用頻度は増えているが、 まだかなりの割合でTorr(トール)が使用されている。

    2. トール[Torr]:ミリメートル水銀柱[㎜Hg]ともいい、 Torricelliが行った実験における水銀柱の静止する高さをミリメートル単位で表した圧カの単位である。 次第に使用されなくなる傾向はあるが、現在でもなお広く用いられている。 このほかバール[bar]が使用される場合もある。

  2. 真空の発生法 真空は通常目的とする容器内の気体を真空ポンプで排気することにより得る。 今日では大気圧から10-14Torr程度の圧力までのさまざまな真空を各種の真空ポンプを用いて発生することができる。 真空ポンプには各種あり、目的真空度に応じて使用される(PDFファイル、図2・63)。 真空ポンプには大気圧からの排気が可能なものや、 あらかじめほかのポンプで予備排気(粗排気、荒引)を行った後(補助真空状態)から作動させるものがある。 前者は油回転ポンブに代表され、後者の予備排気ポンブ(ホールディングポンプ)としてもよく用いられる。 真空技術としてはこのほか冷却により凝結しやすい気体を液化させて除くトラップや、シール、 パッキング部などからの真空漏れを捜すリークディテクションなどがあり、これらを以下に述べる

    1. 回転ポンプ(ロータリー(rotary、回転の)ポンプ): PDFファイルに断面の模式図で示したように、 円筒状の容器(ステーター)内部で偏心させた円柱(ローター)を毎分数百回程度回転させることによって 吸気口から排気口へと気体を押していき排気を行う形式のポンプで、 摩擦を減らし気密性を高めるため油をひたして使うところから油回転ポンプと呼ばれている。 大気圧からの排気が可能であるため拡散ポンプやイオンポンプなどの予備排気ポンプとしても用いられる。 10-1Torr付近を境としてそれ以下の圧カになると排気効率が低下するのでルーツポンプなどのブースターポンプを併用する場合がある。 大よそ10-3Torr程度までの真空が得られるが、通常の使用において到達真空度を決める因子として、 ①ボンプ各部の機構の気密性(外部に対する気密、排気側と吸気側の気密)、 ②排気中にポンプの油中に溶け込んだ気体の放出、などがあげられる。 このうち主に間題となるのは後者であり、気体溶解度の小さい油をポンプに用いたりポンプを直列につなぐ、 あるいは油のトラッブを設けるなどの対策がとられる。 特に水蒸気はポンプ内で凝縮し油を懸濁させるので、 懸濁油を加熱して水分を分離した後ポンプに戻す分離器を用いるか、 あらかじめ飽和水蒸気圧を越えないように吸気を乾燥した空気で希釈しながら排気するなどの工夫が必要である。 使用していくうちにわずかずつ油が減少し、次第に汚れるので定期的に補給・交換する。 ポンプを止めた後油の逆流防止のため必ずポンブ内を大気圧にリークさせておく必要がある。

    2. 拡散ポンプ(ディフユージョン(diffusion、拡散)ポンプ):蒸気噴射ポンプともいわれ、 作動液を加熱して蒸発させ噴出した蒸気にまぎれこませて気体を排気する(図3・14)。 加熱により容易に気化させることが可能で、冷却時には蒸気圧が低く加熱時にも分解せず高い化学的安定性を有する物質が作動液として適している。 この条件を満たすものとして水銀や精製油が用いられているが、 室温での蒸気圧は水銀が10-3Torr程度であるのに対し各種精製油は10-6~10-9Torr程度であるため到達真空度が高く、 現在では主に精製油が用いられている(油拡散ポンプ)。 排気中だけでなく真空側にも作動液の蒸気が微量流入し真空装置内を汚染させるので液体窒索などのトラップ(後述)がしばしば用いられる。 また水銀拡散ポンプの揚合は排気中の水銀を除去するため排気側にもトラップをつける必要がある。 拡散ポンプは加熱ボイラーをもつため万一の断水時などに警報装置などの安全装置を傭えるべきである。 また油の汚染は到達真空度を低くするためポンプ内は常に真空に保ったままにしておくことが望ましい。 油拡散ポンプにより最高10-9Torr程度の真空が得られるが、実際にはこの程度の高真空の応用上わずかに残る油蒸気を嫌うことが多く、 操作性のうえからも外部との完全な気密状態で動作させるポンプ(ため込みポンプ、 後述のイオンポンプ、ゲッターポンプなど)が多く用いられており、拡散ポンプは10-7Torr程度までの用途に使われることが多い。