地質学の研究において、化学データの役割は年々高くなっている。 地球の歴史を知るためには放射起源核種の分析に基づく絶対年代決定が不可欠であるし、 過去の海水温を知るために有孔虫などの酸素同位体比が研究されるなど、 化学データ活用の例は枚挙にいとまがない。それは当然のことで、 「地質学の根本問題は、地球はどのようにして今日のありさまになったか」(ファインマン物理学の一節)、 を解明することだから、過去の地層や岩石などの物質試料に残されている情報の解読が必要不可欠なのである。 情報の種類は、今までは、化石、岩石種、地層に残されている構造、地質体相互の接触関係など、 肉眼で観察される情報が主であったが、現在では、さらに詳しい情報を求めて化学データが必要とされている。 化石の産しない30-40億年前の時代でも、生命活動の痕跡は化学化石として認められる。 また、巨大隕石の衝突という説は、地層中の極微量のイリジウムの存在から導かれた。
しかしながら、化学データの取得原理や、いろいろな分析方法の適性など、分析に関する基礎的な事柄についての、 地質科学科学生への教育は十分ではない。 したがって、本教材は、岩石や鉱物、陸水などの地質試料の化学データを、どのような原理と方法、 装置を用いて取得するのか、を理解させることを目的とする。 本教材は「地球化学実験」という題ではあるが、内容は「地学系学生のための基礎化学分析実験」である。
いろいろな分析方法を学ぶ。 重量分析(SO42-)、 容量分析(キレート滴定、Ca,Mg)、 機器分析1(比色(吸光光度)分析、Ti)、 機器分析2(原子吸光分析、Mn)、状態分析(酸化還元滴定、Fe2+)など。 ほか化学分析に関係した必須事項(試料の採取・調製法、測定値の表示法、安全教育)、 および、地質学でよく使用する真空機器とその取り扱い方(走査型電顕、X線マイクロアナライザ)を説明する。
0. | 「地球化学実験」の学習について |
1. | 溶液の濃度とその表し方 |
2. | 容量分析(キレート滴定によるCaの定量) |
3. | 重量分析(重量法による硫酸根の分析) |
4. | 重量分析(続き)(重量法による硫酸根の分析) |
5. | 比色分析(チタン石中のTiの吸光光度分析) |
6. | 原子吸光分析 |
7. | 試料の採取と調整、試料の分解 |
8. | 状態分析、酸化還元滴定 |
9. | 第一鉄の分析 |
10. | 誤差と測定値の表示 |
11. | 危険の防止 |
12. | 真空装置の取り扱い方、SEM |
13. | X線の発生、EPMA |
14. | 質量分析 |
15. | 試験問題 |
分析法や装置の原理を、本教材で学んでもらいたい。また、演習問題も収録したので、それらを自分で解き、修得を完全にしていただきたい。
教科書はない。
参考書として、「基礎化学選書2 分析化学 長島弘三、富田功 著 裳華房 \3,300+税」。