すべての元が正則元であるモノイドを群 (group) という。すなわち、演算の定義された集合 で
がすべて成り立つとき を群という。群は半群やモノイドの特別なものであるから、それらに対して成り立つことはすべて成り立つ。群 において、更に
が成り立つとき をアーベル群 (abelian group)、または可換群 (commutative group) という。
証明. (1) とすると、両辺に左から をかけて となる。逆も同様である。 (2) より となり は全単射である。 (3) となり は全単射である。他も同様である。
証明. 任意の に対して より である。よって任意の に対して である。一方 であるから となる。
証明. ならば なので演算は で定義される。また より はモノイドである。 ならば も成り立ち は群である。
この命題の を と書いて の単数群 (unit group) という。
例2.1.7 (対称群). モノイド (例 1.7.5 ) について、その単数群 を 上の対称群 (symmetric group) といい、これを と書くことにする。 の元は から への全単射で、それを 上の置換 (permutation) という。置換を具体的に書くには
例2.1.8. 次対称群 の元をすべて書くと以下のようになる。
群 について、 のとき を有限群 (finite group) という。また のとき を無限群 (infinite group) という。 のとき を の位数 (order) という。
例2.1.12 (一般線形群). を成分とする 次正方行列の全体を と書く。 が行列の積によって単位行列を単位元とするモノイドである。その単数群を 上 次の一般線形群 (general linear group) といい と書く。 の単数は正則行列のことであるから は正則行列全体の集合である。 は無限群である。
, も同様である。
(これらは , などとも書かれる。)
問2.1.14. をモノイドで、集合として有限集合であるとする。右簡約法則「 に対して ならば である」が成り立つとすると は群になる。これを示せ。また が有限集合ではないとき、これは正しくない。そのような例を具体的に一つ示せ。
群 がアーベル群であるとき、その演算を加法の形で書くことが多い。このとき を加群(additive group)、または加法群という。 加群の単位元を零元といい または と書く。また の逆元は と書く。群の定義を加法の形で書き直すと以下のようになる。
加群 において を と書く。
に対して、加群 の元 を 個加えたものを と書く。また を 個加えたものを と書く。また と定める。これによって任意の に対して が定義され、以下が成り立つ。 , とする。
ここで (2), (3), (4) は通常の意味の分配法則、結合法則ではないことに注意する。
群 の空でない部分集合 が
を満たすとき、 を の部分群 (subgroup) という。
証明. (1) (2) を の部分群とする。 (B1) より ならば であるから の演算は の演算を定義する。結合法則は で成り立つので でも成り立つ。また は空でないからある元 を含む。このとき (B2) より でもある。よって であり は においても単位元である。 (B2)により任意の元の逆元も存在する。
(2) (3) 群の定義より明らかである。
(3) (1) は空でないから をとると である。任意に をとる。このとき より である。よって (B2) が成り立つ。最後に任意に をとる。 (B2) より である。したがって となり (B1) が成り立つ。
証明. とする。 を示せばよい。 , であるから が部分群であることにより である。同様に が部分群であることにより である。よって である。
群 の部分集合 に対して
注意. 上記の計算を群の元の計算と混同してはいけない。例えば は一般に正しくない。 (なぜ正しくないのかを考えよ。)
証明. に対して を示せばよい。 より であり、同様にに繰り返せば、任意の に対して である。 は有限集合であるから、すべての が異なることはできず、したがってある , が存在して となる。このとき簡約法則によって である。 ならば であり、 である。 のとき であって、よって となる。
証明. (1) が の部分群であるとする。このとき である。一方 , なので となるので となる。
次 に で あ る と する。このとき であるから は の部分群である。
(2) とする。 より と が存在して である。 であって であるから である。よって となり である。以上より となる。
とする。ある と が存在して である。このとき であり、 であるから も成り立つ。よって であり である。
以上により が成り立つ。
群 において 自身と は の部分群である。これらを の自明な部分群(trivial subgroup) という。また と異なる部分群を真部分群 (proper subgroup) という。
を群 の部分集合とする。
特に のとき
証明. (1) まず となる が存在すると仮定して (i) を示す。
とすると , なる が存在する。このとき
(i) より となることはすぐに分かる。これらがすべて異なることを示す。 に対して とすると , となり の最小性に反する。よってこれらはすべて異なり である。
(2) がすべて異なることを示せばよい。 ( )に対して と仮定すると、前と同様に , となり は有限巡回群になる。よって、これらの元はすべて異なる。
を群 の部分群とする。 上の関係 を「 のとき 」で定める。このとき は 上の同値関係であることを示そう。
まず、任意の に対して であるから である。次に と仮定する。このとき であるから で が成り立つ。 かつ と仮定すれば であるから である。以上より は同値関係である。
証明. (1) (2) である。
(2) (3) とすると、ある が存在して である。このとき であるから である。
(3) (4) とすると、ある が存在して である。このとき である。
(4) (1) ある が存在して である。このとき , に注意しておく。
任意の に対して であるから が成り立つ。任意の に対して であるから が成り立つ。以上より である。
以上のことは関係 を で定義しても同様に成り立つ。
を の左剰余類 (left coset) といい、左剰余類全体の集合を と書く。同様に を の右剰余類 (right coset) といい、右剰余類全体の集合を と書く。
は同値関係で左剰余類はその同値類となるので、左剰余類に関する類別
として左剰余類を考えてみると
として左剰余類を考えてみると
上の例のように、左剰余類による類別と右剰余類による類別が一致するとき、言い換えれば が任意の について成り立つとき、 を の正規部分群(normal subgroup) という。特に がアーベル群ならば任意の部分群は正規部分群である。
問2.4.4. を有限群とし をその部分群とする。任意の に対して であることを示せ。また、異なる左剰余類の数を と書くとき であることを示せ。 (これをLagrange の定理という。また を における の指数 (index) という。右剰余類についても同様のことが成り立つ。)
を群とし をその正規部分群とする。このとき、任意の について である。よって剰余類は右、左の区別をする必要がない。剰余類全体の集合 に以下のような演算を考える。
この場合 となる が存在するかもしれない。違う を使うと結果が変わってしまうというのでは演算 (写像) が定義されていると はいえない。したがって、演算が矛盾なく定義されるためには か つ と仮定したとき が成り立たなければならな い。
かつ と仮定する。ある が存在して , である。また なので、ある が存在して である。よってこのとき
この演算に関して、結合法則が成り立つことは明らかで、更に