代数学入門

花木章秀

目次

2
2.1 群の定義と例
2.2 加群
2.3 部分群
2.4 剰余類
2.5 剰余群

Chapter 2

2.1 群の定義と例

すべての元が正則元であるモノイドを (group) という。すなわち、演算の定義された集合 G

(G1) [結合法則]
任意の a, b,c ∈ G について a (bc) = (ab)c である。
(G2) [単位元の存在]
ある e ∈ G が存在して、任意の a ∈ G に対して ea = ae = a である。 (このとき e 1G とも書く。)
(G3) [逆元の存在]
任意の a ∈ G に対して、ある b ∈ G が存在して ab = ba = e で ある。 (このときの b a-1 と書く。)

がすべて成り立つとき G を群という。群は半群やモノイドの特別なものであるから、それらに対して成り立つことはすべて成り立つ。群 G において、更に

(G4)
[交換法則] 任意の a, b ∈ G について ab = ba である。

が成り立つとき G アーベル群 (abelian group)、または可換群 (commutative group) という。

命題2.1.1. 群 G について次が成り立つ。

  1. (1) [簡約法則] ax = ay ならば x = y である。また xa = ya ならば x = y であ る。
  2. (2) f : G → G (  - 1x ↦→ x ) は全単射である。
  3. (3) a ∈ G を一つ固定するとき
    ga : G → G (x ↦→ xa)ha : G → G (x ↦→ ax)ka : G → G (x ↦→ a-1xa)
    はすべて全単射である。

証明. (1) ax = ay とすると、両辺に左から  - 1a をかけて x = y となる。逆も同様である。 (2) (x-1)-1 = x より f2 = idG となり f は全単射である。 (3) ga ∘ ga-1 = ga-1 ∘ ga = idG となり ga は全単射である。他も同様である。

□

命題2.1.2. 群 G において、任意の x ∈ G x2 = 1 を満たすならば、 G はアーベル群である。

証明. 任意の x ∈ G に対して  2x = 1 より  -1x = x である。よって任意の a,b ∈ G に対して (ab)-1 = ab である。一方 (ab)-1 = b-1a-1 = ba であるから ab = ba となる。

□

例2.1.3. ℚ ♯ = ℚ - {0 } とおく。このとき ℚ ♯ は乗法に関してアーベル群で、単位元は 1 a ∈ ℚ ♯ の逆元は 1∕a である。 ℝ ♯ = ℝ - {0} , ℂ ♯ = ℂ - {0} でも同様である。

例2.1.4.

  1. (1) ℚ は乗法に関してモノイドではあるが群ではない。なぜならば 0 に逆元がないか らである。
  2. (2) ℤ♯ = ℤ - {0 } は乗法に関してモノイドではあるが群ではない。なぜならば 2 に 逆元がないからである。

命題2.1.5. M をモノイドとし U M の正則元全体の集合とする。このとき U M の演算で群になる。

証明. a,b ∈ U ならば ab ∈ U なので演算は U で定義される。また 1 ∈ U より U はモノイドである。 a ∈ U ならば a-1 ∈ U も成り立ち U は群である。

□

この命題の U U (M ) と書いて M 単数群 (unit group) という。

例2.1.6.

  1. (1) ℚ は乗法に関してモノイドである。その単数群は  ♯U(ℚ ) = ℚ = ℚ - {0} である。
  2. (2) ℤ は乗法に関してモノイドである。その単数群は U (ℤ ) = { - 1, 1} である。

例2.1.7 (対称群). モノイド XX (例 1.7.5 ) について、その単数群 U(XX ) X 上の対称群 (symmetric group) といい、これを S (X ) と書くことにする。 S (X ) の元は X から X への全単射で、それを X 上の置換 (permutation) という。置換を具体的に書くには

 ( ) xS (X ) ∋ σ = σ (x)
のように書く。特に |X | = n のとき、 X = {1,2,⋅⋅⋅ ,n } と考えても本質的には同じである。このとき S(X ) Sn とも書き、これを n 次対称群という。 Sn の元を n 次の置換という。

例2.1.8. 3 次対称群 S3 の元をすべて書くと以下のようになる。

 ( ( ) ( ) ( ) ) ||{ 1 2 3 , 1 2 3 , 1 2 3 ,||} ( 1 2 3 ) ( 1 3 2 ) ( 2 1 3 )S3 = | 1 2 3 1 2 3 1 2 3 | |( 2 3 1 , 3 1 2 , 3 2 1 |)
元の積は以下のようになる。
( ) ( ) ( ) 1 2 3 1 2 3 1 2 3 3 1 2 1 3 2 = 3 2 1
右の置換を先に行い、例えば 1 については 1 ↦→ 1 ↦→ 3 となる。逆元は上の行と下の行を入れ替えて
( ) -1 ( ) ( ) 1 2 3 2 3 1 1 2 3 2 3 1 = 1 2 3 = 3 1 2
と計算できる。置換を表す列の並びは元の対応を表しているだけなので、列を並び替えても構わない。

問2.1.9. S3 の演算表を書け。

問2.1.10. n ≥ 3 のとき Sn はアーベル群ではないことを、具体的に στ ⁄= τσ なる σ,τ ∈ Sn を見つけることによって示せ。

G について、 |G | < ∞ のとき G 有限群 (finite group) という。また |G | = ∞ のとき G 無限群 (infinite group) という。 |G| < ∞ のとき |G | G 位数 (order) という。

問2.1.11. n 次対称群 Sn の位数は n! であることを示せ。

例2.1.12 (一般線形群). ℝ を成分とする n 次正方行列の全体を M (n,ℝ ) と書く。 M (n, ℝ) が行列の積によって単位行列を単位元とするモノイドである。その単数群を ℝ n 次の一般線形群 (general linear group) といい GL (n,ℝ ) と書く。 M (n,ℝ ) の単数は正則行列のことであるから GL (n,ℝ ) は正則行列全体の集合である。 GL (n, ℝ) は無限群である。

GL (n,ℚ ) , GL (n,ℂ ) も同様である。

(これらは Mn (ℝ) , GLn (ℝ ) などとも書かれる。)

問2.1.13. n ≥ 2 のとき GL (n, ℝ) はアーベル群ではないことを示せ。

問2.1.14. A をモノイドで、集合として有限集合であるとする。右簡約法則「 x, y,z ∈ A に対して xz = yz ならば x = y である」が成り立つとすると A は群になる。これを示せ。また A が有限集合ではないとき、これは正しくない。そのような例を具体的に一つ示せ。

2.2 加群

G がアーベル群であるとき、その演算を加法の形で書くことが多い。このとき G 加群(additive group)、または加法群という。 加群の単位元を零元といい 0 または 0G と書く。また a の逆元は - a と書く。群の定義を加法の形で書き直すと以下のようになる。

(A1) [結合法則]
任意の a,b,c ∈ G について a + (b + c) = (a + b) + c である。
(A2) [零元の存在]
ある 0 ∈ G が存在して、任意の a ∈ G に対して 0 + a = a + 0 = a である。
(A3) [逆元の存在]
任意の a ∈ G に対して、ある b ∈ G が存在して a + b = b + a = 0 である。 (このときの b - a と書く。)
(A4) [交換法則]
任意の a,b ∈ G について a + b = b + a である。

加群 G において a + (- b) a - b と書く。

例2.2.1. ℤ , ℚ , ℝ , ℂ は (通常の加法によって) すべて加群である。 ℕ は加群ではない。

n ∈ ℕ に対して、加群 G の元 a n 個加えたものを na と書く。また - a n 個加えたものを - na と書く。また 0a = 0 と定める。これによって任意の m ∈ ℤ に対して ma が定義され、以下が成り立つ。 a,b ∈ G , m, n ∈ ℤ とする。

  1. (1) (- m )a = m(- a) = m (- a) である。特に (- 1)a = - a である。
  2. (2) (m + n )a = ma + na
  3. (3) m (na) = (mn )a
  4. (4) m (a + b) = ma + mb

ここで (2), (3), (4) は通常の意味の分配法則、結合法則ではないことに注意する。

2.3 部分群

G の空でない部分集合 H

(B1)
a, b ∈ H ならば ab ∈ H である。
(B2)
a ∈ H ならば  -1a ∈ H である。

を満たすとき、 H G 部分群 (subgroup) という。

命題2.3.1. 群 G の空でない部分集合 H について以下は同値である。

  1. (1) H G の部分群である。
  2. (2) H G の演算によって群である。
  3. (3) a,b ∈ H ならば ab- 1 ∈ H である。

証明. (1) =⇒ (2) H G の部分群とする。 (B1) より a, b ∈ H ならば ab ∈ H であるから G の演算は H の演算を定義する。結合法則は G で成り立つので H でも成り立つ。また H は空でないからある元 a を含む。このとき (B2) より a-1 ∈ H でもある。よって  -11G = aa ∈ H であり 1G H においても単位元である。 (B2)により任意の元の逆元も存在する。

(2) =⇒ (3) 群の定義より明らかである。

(3) =⇒ (1) H は空でないから a ∈ H をとると 1 = aa-1 ∈ H である。任意に a ∈ H をとる。このとき 1 ∈ H より a-1 = 1a-1 ∈ H である。よって (B2) が成り立つ。最後に任意に a,b ∈ H をとる。 (B2) より - 1b ∈ H である。したがって ab = a (b- 1)- 1 ∈ H となり (B1) が成り立つ。

□

命題2.3.2. H, K が共に G の部分群であるとき H ∩ K G の部分群である。

証明. a,b ∈ H ∩ K とする。 ab- 1 ∈ H ∩ K を示せばよい。 a ∈ H , b ∈ H であるから H が部分群であることにより ab -1 ∈ H である。同様に K が部分群であることにより ab- 1 ∈ K である。よって ab- 1 ∈ H ∩ K である。

□

G の部分集合 A,B に対して

AB = {ab | a ∈ A, b ∈ B }A -1 = {a -1 | a ∈ A }
と定める。特に B = {b} のときには A{b} Ab とも書く。 bA も同様である。
Ab = {ab | a ∈ A }, bA = {ba | a ∈ A }

問2.3.3. 群 G と、その部分集合 A,B, C に対して、次が成り立つことを示せ。

  1. (1) A (BC ) = (AB )C
  2. (2)  - 1- 1(A ) = A
  3. (3)  -1 -1 -1(AB ) = B A

問2.3.4. 群 G と、その空でない部分集合 H に対して、以下は同値であることを示せ。

  1. (1) H G の部分群である。
  2. (2) HH ⊂ H かつ  -1H ⊂ H
  3. (3)  -1HH ⊂ H

問2.3.5. H が群 G の部分群であるとき

HH = HH -1 = H -1 = H
が成り立つ。これを示せ。

注意. 上記の計算を群の元の計算と混同してはいけない。例えば HH -1 = 1 は一般に正しくない。 (なぜ正しくないのかを考えよ。)

命題2.3.6. 群 G と、その空でない部分集合 H に対して、 |H | < ∞ かつ HH ⊂ H ならば H G の部分群である。

証明. h ∈ H に対して h-1 ∈ H を示せばよい。 HH ⊂ H より h2 ∈ H であり、同様にに繰り返せば、任意の n ∈ ℕ に対して hn ∈ H である。 H は有限集合であるから、すべての hn が異なることはできず、したがってある m, n ∈ ℕ , m < n が存在して  m nh = h となる。このとき簡約法則によって  n- mh = 1 である。 n - m = 1 ならば 1 = h ∈ H であり、  -1h = 1 ∈ H である。 n - m > 0 のとき n - m - 1 ≤ 0 であって、よって h-1 = hn -m-1 ∈ H となる。

□

命題2.3.7. H, K が群 G の部分群であるとき次が成り立つ。

  1. (1) HK G の部分群であるための必要十分条件は HK = KH である。
  2. (2) L H を含む G の部分群であるならば (HK ) ∩ L = H (K ∩ L ) である。

証明. (1) HK G の部分群であるとする。このとき  -1(HK ) = HK である。一方 H - 1 = H , K -1 = K なので (HK )-1 = K - 1H -1 = KH となるので HK = KH となる。

次 に HK = KH で あ る と する。このとき  -1 -1 -1(HK )(HK ) = HKK H = HKKH = HHKK = HK であるから HK G の部分群である。

(2) x ∈ HK ∩ L とする。 x ∈ HK より h ∈ H k ∈ K が存在して x = hk である。 x ∈ L であって h ∈ H ⊂ L であるから k = h- 1x ∈ L である。よって k ∈ K ∩ L となり x = hk ∈ H (K ∩ L ) である。以上より (HK ) ∩ L ⊂ H (K ∩ L) となる。

y ∈ H (K ∩ L ) とする。ある h ∈ H k ∈ K ∩ L が存在して y = hk である。このとき y = hk ∈ HK であり、 h ∈ H ⊂ L であるから y = hk ∈ L も成り立つ。よって y ∈ HK ∩ L であり H (K ∩ L ) ⊂ HK ∩ L である。

以上により (HK ) ∩ L = H (K ∩ L ) が成り立つ。

□

G において G 自身と {1} G の部分群である。これらを G 自明な部分群(trivial subgroup) という。また G と異なる部分群を真部分群 (proper subgroup) という。

S を群 G の部分集合とする。

 n1 n2 nra1 a2 ⋅⋅⋅ar (ai ∈ S,ni ∈ ℤ, r ∈ ℕ )
の形の元すべての集合は G の部分群である。これを ⟨S⟩ と書き、 S で生成される部分群(subgroup generated by S ) という。 S が有限集合 {s1,⋅⋅⋅ ,sℓ} であるとき ⟨S ⟩ ⟨s1⋅⋅ ⋅ ,sℓ⟩ とも書く。

特に S = {a} のとき

⟨a⟩ = {an | n ∈ ℤ } = {⋅⋅⋅ ,a-2,a-1,1,a, a2,⋅⋅⋅}
である。これを a で生成される巡回群 (cyclic group) といい a をその生成元 (generater) という。部分群 ⟨a⟩ の位数を元 a 位数 (order) といい o(a) と書く。

問2.3.8. ⟨S ⟩ が部分群であることを示せ。

命題2.3.9. 巡回群 ⟨a⟩ について次が成り立つ。

  1. (1) am = 1 となる m ∈ ℕ が存在すれば ⟨a⟩ は有限巡回群である。 am = 1 とな る m ∈ ℕ のうち最小のものを n をすれば n = o(a ) であって次が成り立 つ。
    1. (i)  ma = 1 ⇐ ⇒ n | m
    2. (ii) ⟨a⟩ = {1,a,a2,⋅⋅⋅ ,an-1} であって、これらの元はすべて相異なる。
  2. (2) ⟨a⟩ が無限巡回群ならば
     -2 -1 2⋅⋅⋅ ,a ,a ,1,a, a ,⋅⋅⋅
    はすべて相異なり ⟨a⟩ はこれらの元からなる。

証明. (1) まず am = 1 となる m ∈ ℕ が存在すると仮定して (i) am = 1 ⇐ ⇒ n | m を示す。

 ma = 1 とすると m = nq + r , 0 ≤ r < n なる q,r ∈ ℤ が存在する。このとき

 m n q r r1 = a = (a ) a = a
となるが n の最小性から r = 0 である。よって n | m である。 n | m と仮定すれば、明らかに  m n m ∕na = (a ) = 1 である。

(i) より  2 n-1⟨a⟩ = {1,a,a ,⋅⋅⋅ ,a } となることはすぐに分かる。これらがすべて異なることを示す。 0 ≤ i < j < n に対して ai = aj とすると aj-i = 1 , 0 < j - i < n となり n の最小性に反する。よってこれらはすべて異なり o(a) = |⟨a⟩| = n である。

(2) ⋅⋅⋅ ,a- 2,a -1,1,a,a2,⋅⋅⋅ がすべて異なることを示せばよい。 i < j ( i,j ∈ ℤ )に対して  i ja = a と仮定すると、前と同様に  j-ia = 1 , 0 < j - i となり ⟨a⟩ は有限巡回群になる。よって、これらの元はすべて異なる。

□

2.4 剰余類

H を群 G の部分群とする。 G 上の関係 ~ を「 aH = bH のとき a ~ b 」で定める。このとき ~ G 上の同値関係であることを示そう。

まず、任意の a ∈ G に対して aH = aH であるから a ~ a である。次に a ~ b と仮定する。このとき aH = bH であるから bH = aH b ~ a が成り立つ。 a ~ b かつ b ~ c と仮定すれば aH = bH = cH であるから a ~ c である。以上より ~ は同値関係である。

命題2.4.1. H を群 G の部分群 H とする。 a,b ∈ G について次の条件は同値である。

  1. (1) a ~ b (すなわち aH = bH )
  2. (2) b ∈ aH
  3. (3) a ∈ bH
  4. (4) a-1b ∈ H

証明. (1) =⇒ (2) b = b1 ∈ bH = aH である。

(2) =⇒ (3) b ∈ aH とすると、ある h ∈ H が存在して b = ah である。このとき h- 1 ∈ H であるから a = bh-1 ∈ bH である。

(3) =⇒ (4) a ∈ bH & とすると、ある h ∈ H が存在して a = bh である。このとき a-1b = h- 1 ∈ H である。

(4) = ⇒ (1) ある h ∈ H が存在して a-1b = h である。このとき a = bh-1 , b = ah に注意しておく。

任意の h1 ∈ H に対して  -1ah1 = bh h1 ∈ bH であるから aH ⊂ bH が成り立つ。任意の h2 ∈ H に対して bh2 = ahh2 ∈ aH であるから bH ⊂ aH が成り立つ。以上より aH = bH である。

□

以上のことは関係 ~ Ha = Hb で定義しても同様に成り立つ。

aH H 左剰余類 (left coset) といい、左剰余類全体の集合を G ∕H と書く。同様に Ha H 右剰余類 (right coset) といい、右剰余類全体の集合を H \ G と書く。

~ は同値関係で左剰余類はその同値類となるので、左剰余類に関する類別

 ⋃G = aiH i∈I
が得られる。

問2.4.2.  ⋃G = i∈I aiH が左剰余類に関する類別であることと、  ⋃G = i∈I Hai- 1 が右剰余類に関する類別であることは同値であることを示せ。

例2.4.3. 3 次対称群 S3 を考える。 S3 の元は

 ( ) ( ) ( )g = 1 2 3 , g = 1 2 3 , g = 1 2 3 , 1 ( 1 2 3 ) 2 ( 1 3 2 ) 3 ( 2 1 3 ) 1 2 3 1 2 3 1 2 3g4 = 2 3 1 , g5 = 3 1 2 , g6 = 3 2 1
である。

H = ⟨g2⟩ = {g1, g2} として左剰余類を考えてみると

g H = g H = {g ,g } 1 2 1 2g3H = g4H = {g3,g4}g5H = g6H = {g5,g6}
である。一方、右剰余類は
Hg1 = Hg2 = {g1,g2}Hg = Hg = {g ,g } 3 5 3 5Hg4 = Hg6 = {g4,g6}
である。よってこの場合、左剰余類による類別と右剰余類による類別は異なっている。

K = ⟨g ⟩ = {g ,g ,g } 4 1 4 5 として左剰余類を考えてみると

g1H = g4H = g5H = {g1,g4,g5}g2H = g3H = g6H = {g2,g3,g6}
であり、右剰余類も
Hg1 = Hg4 = Hg5 = {g1,g4,g5}Hg2 = Hg3 = Hg6 = {g2,g3,g6}
となる。よってこの場合、左剰余類による類別と右剰余類による類別は一致している。

上の例のように、左剰余類による類別と右剰余類による類別が一致するとき、言い換えれば aH = Ha が任意の a ∈ G について成り立つとき、 H G 正規部分群(normal subgroup) という。特に G がアーベル群ならば任意の部分群は正規部分群である。

問2.4.4. G を有限群とし H をその部分群とする。任意の a ∈ G に対して |aH | = |H | であることを示せ。また、異なる左剰余類の数を |G : H | と書くとき |G | = |G : H ||H | であることを示せ。 (これをLagrange の定理という。また |G : H | G における H 指数 (index) という。右剰余類についても同様のことが成り立つ。)

2.5 剰余群

G を群とし N をその正規部分群とする。このとき、任意の a ∈ G について aN = N a である。よって剰余類は右、左の区別をする必要がない。剰余類全体の集合 G∕N に以下のような演算を考える。

(aN )(bN ) = (ab)N
まずこれが矛盾なく定義されることを示す。

この場合 aN = a′N となる a′ ∈ G が存在するかもしれない。違う a′ を使うと結果が変わってしまうというのでは演算 (写像) が定義されていると はいえない。したがって、演算が矛盾なく定義されるためには  ′aN = aN か つ  ′bN = bN と仮定したとき  ′ ′(ab)N = (a b)N が成り立たなければならな い。

 ′aN = a N かつ  ′bN = bN と仮定する。ある n1,n2 ∈ N が存在して  ′a = an1 , b′ = bn2 である。また bN = N b なので、ある n3 ∈ N が存在して n1b = bn3 である。よってこのとき

a′b′ = an1bn2 = abn3n2 ∈ (ab)N
となり  ′ ′(a b)N = (ab)N である。よってこの演算は矛盾なく定義される。

この演算に関して、結合法則が成り立つことは明らかで、更に

 -1 -1(1N )(aN ) = (aN )(1N ) = aN, (aN )(a N ) = (a N )(aN ) = 1N
が成り立つ。よって G ∕N はこの演算によって 1N を単位元とする群になる。 aN の逆元は a- 1N である。この群を G N による剰余群 (factor group) といい、剰余類全体の集合と同じ記号を使って G ∕N とかく。

例2.5.1. ℤ を加群と見る。 n ∈ ℕ を一つ固定する。 n で生成される部分群 ⟨n⟩ n の倍数全体の集合で、これを nℤ と書く。 a ∈ ℤ を含む nℤ による剰余類は

a + nℤ = {a + nℓ | ℓ ∈ ℤ }
である。また {0,1,⋅⋅⋅ ,n - 1} は剰余類による類別の完全代表系である。よって
ℤ ∕nℤ = {0 + nℤ, 1 + nℤ, ⋅⋅⋅ , (n - 1) + nℤ }
である。演算は、例えば
(3 + 5ℤ ) + (4 + 5ℤ ) = 7 + 5 ℤ = 2 + 5ℤ
のようになる。