[2-1] 社会生活への参加
参与観察の第1の特徴は、社会生活に直接参加することです。参与観察する場合、4つの参加の仕方があります。つまり、
といった4つの役割に分けることができます。
- 完全なる参加者とは、調査者が調査をしていることを対象となる人々や社会に気づかれないようにして調査する調査者のことを指します。
- 観察者としての参加者とは、調査者が調査の目的として現場にいることを対象となる人々や社会に知らせた上で調査する調査者のことを指します。
- 参加者としての観察者とは、一度だけ現地を訪れてインタビューをおこなったり調査票調査をおこなうような観察者のことを指します。
- 完全なる観察者とは、調査者が対象者と全く社会的な接触をおこなわない調査者のことを指します。例えば、マジック・ミラーで対象者の行動を観察するような場合がこれにあたります。
それでは、調査対象となる社会生活に、実際どのように参加していくのでしょうか。例を見てみましょう。
一月のとてつもなく寒い日の朝、僕ははじめてバイク便の会社を訪れた。雑居ビルのなかにある事務所は大学のサークルの部室のようだ。ヘルメット、マンガ、ライダーズスーツ、雨具、工具なんかが部屋中に散らかり、その奥で配車係がひっきりなしに電話でライダーたちに指示を出している。
阿部真大『搾取される若者たち』集英社新書
僕は飯場に出かけることにした。
飯場の男たちと一緒に働こう。体で何かを感じとろうと思った。
…スポーツニッポン新聞を買って、未経験可と記載してある会社に片っ端から電話をかけると、一件の面接にこぎつけることができた。
…さっそく飯場の事務所を訪ね、先ほど電話した面接希望の者だと告げると、事務所の奥のテーブルに通された。
塚田努『だから山谷はやめられねえ』幻冬社
第1の例では、調査者はバイク便の会社にバイトとして働くことで、バイク便ライダーの世界に参加していきます。また第2の例では、調査者は飯場で生活しながら、日雇いの労働者の世界に参加していきます。
アメリカの代表的な参与観察研究である『タリーズコーナー』の著者は、1960年代のアメリカにおける下層黒人階層の生活を調べるために、最初、黒人下層階層が多く住む地域を「一ヶ月かそこら街をぶらぶらして感性を養」おうと考えていました。
初めてそこに行ったとき、…通りの先で騒動が起こっているのに気が付いた。一人の男が、後でわかったことには、それはウェスリー刑事だったのだが、足をバタバタさせて叫んでいる女性を派出所に引きずっているところだった。…私は二人の男たちに近づいて、その女性が何をしたのかと尋ねた。二人ともはっきりとは知らなかった。若い方の男は、自分は二つの話を知っていると言い、その両方を話し始め、その結論としてウェスリー刑事を六、七年見知っているが彼は「ろくな男じゃあない」という見解を述べたのだった。
私は、警官もときには男として意義のある仕事だと思う、といった。このことが警官についての議論となり、その話題についての個人的な経験や逸話をお互いに示しあった。その10~15分後、…あそこ(引用者注:キャリーアウトというカフェ)へ行ってちょっとコーヒーでもどうだ、と言ってみたところ、彼(引用者注:一人は帰っていった)は私に同意した。…私たちはカウンターに腰掛けて数時間もコーヒーを飲みながら話をした。
…
次の日もまた朝9時に、私は同じ街角に向かっていた。四人の男たちが集団になってキャリーアウトの前に立っていた。
E. リーボウ『タリーズコーナー』東信堂
リーボウは、その後カフェに集まる男たちと何時間も雑談を繰り返し、下層階級の黒人の生活を調べていきます。